A については、吉良(2006)で包括的な検討を行っており、それが本書の中核的部分となる。具体的な拡充ポイントとしては、ロールズ貯蓄原理と正義感覚論、近年の功利主義からのアプローチ(安藤馨、Tim Mulganなど)、将来志向的自我論の規範的含意(Samuel Schefflerなど)について。吉良自身の立場としては、ハンス・ヨナス的な責任論を批判的に継承しつつ、そのリバタリアン的/現在中心主義的な組み換えを目指す。
B については、非-存在者にかかわる分析形而上学や、非同一性問題の近年の議論などをふまえ、世代間正義論を正義論の単なる応用問題としてではなく、独自の法哲学的意義を有したものとして位置づけ、法的諸概念にとっての時間性の重要さを示す。時間論的立場としての「現在主義」から法理論を組み替える可能性(これは本書ではできるところまでとして、次の著書で全面的に展開すべき課題とする)。
C については、A・Bの議論の実践的含意を示しつつ、世代間正義論で提起された問題に取り組むことが、公的年金問題ほか、現在世代内の正義の問題を考えるにあたっても不可欠であることを示す。