1. なぜライルに戻るのか──私の場合
きっかけ
-
- ライルと言えば行動主義。ところが、、、
ライルは行動主義者であるという考えは、ライルを読んだことのない人にしか思い浮かばない。(Rödl 2012(2005),p. 5 n3)
数多の教科書風の解説に満足せず、ちゃんと『心の概念』を読まなくては!
-
- 行為論を勉強していると、、、
企図、意図、望み(wanting)の基本的対象を述べる言語表現が表示するのは、ライル、ケニー、ヴェンドラーが到達や遂行などさまざまな名称で呼んできたものである。今やこの伝統は、言語学者のあいだにしか生き残っていないように見える。(Thompson 2008, p. 123)
トンプソンの引用を少し解説
- ライル=ケニー=ヴェンドラーの伝統とは、言語学でいうところの「アスペクト」の探究のこと。
- この伝統は言語学に大きな影響を与えたが、哲学のメインストリーム、たとえば行為論の中で継承されることはなかった。
- トンプソンは、哲学的アスペクト論を行為論に再導入しようとしている。
アスペクトとは?──簡単な例示から
I was walking to school.
(私は学校まで歩いていた。)
I walked to school.
(私は学校まで歩いた。)
どちらも過去形なので違いはテンスによるものではない。この違いを伝えるのがアスペクト。
テンス(時制)
ある時点(通常は発話時点)を基準として状況を時間上に位置づける。
Taro was taller than Hanako. 過去
Taro is taller than Hanako. 現在
アスペクト(相)
状況の内的な時間的構造を伝える。
I was walking to school. 過程(活動)
The tree was falling down. 過程
I walked to school. 行為
The tree fell down. 出来事
※英語の perfectはsimple past とともに、perfective な内容の出来事報告に使えるが、perfect と perfective は区別されなければならない。
日本語標準語のアスペクト・テンスのシステム(二項対立型)
| テンス \ アスペクト |
完成
perfective |
進行(未完成 imperfective)/結果 |
| 現在 |
× |
シテイル |
| 過去 |
シタ |
シテイタ |
進行相と結果相のアスペクトマーカーが同じ。
(進行相) 木が倒れている。
(結果相) 木が倒れている。
広島弁のテンス・アスペクトのシステム(三項対立型)
| テンス \ アスペクト |
完成 |
進行(未完成) |
結果 |
| 現在 |
× |
ショール |
シトル |
| 過去 |
シタ |
ショッタ |
シトッタ |
進行相と結果相のアスペクトマーカーが異なる。
(進行相) 木が倒れよーった。
(結果相) 木が倒れとった。
ライルをどう読むか
- どうやら、哲学的アスペクト論の系譜の中で『心の概念』を読めば、行動主義者のレッテルづけでは済まないライルが見えてくるらしい。
- 行為論におけるアスペクト概念の再導入への私の元来の関心の一つは、その道具立てを知覚の哲学にも活かせないかという点にあったので、この観点からもライルを読み直してみたい。
今日の発表での問い
- ライルは哲学的アスペクト論の契機とされているが、これは正確にはどう理解されるべきなのか?
- 哲学におけるアスペクト論の最近の再導入においてライルはどう扱われているのか?
※今回は知覚の哲学に焦点を合わせる。
見取り図:アスペクト概念の系譜

2. ライルの動詞分類──達成動詞と仕事動詞
2.1 ライルの存在論

「状態」についての注意
ライルにおける傾向性と事象の区別は、現代では、大雑把に言えば、状態と事象の区別であると考えられている。
| (例) |
ライル |
現代 |
| 信念 |
傾向性 |
状態 |
| 痛みの感覚 |
事象 |
事象 |
単なる用語法上の問題か?
- ライルにとって、「事象的状態 occurrent state」は冗語的語法ではあっても撞着語法ではない。対して、「全面的に傾向的な状態」は撞着語法となる。
- たとえば、「信念とは行動への傾向的状態である」というおなじみのライル的スローガンは、ライル自身にはぎこちなく見えるだろう。
- この捻れは、単なる用語法上の問題にすぎないとは私は考えない。この点については5節で立ち戻る。
2.2 ライルの動詞分類
| 傾向性語 |
エピソード語 |
半ば傾向性
動詞 |
達成動詞
achievement verbs |
仕事動詞
task verbs |
その他 |
わかった動詞
got it verbs |
保持動詞
keeping verbs |
臓器感覚動詞
organic sensation verbs
他 |
be
a
migrant
be
soluble
know
believe |
migrate
dissolve |
see
hear
cure/heal
win
sore
find
hit
prove
solve |
keep
in
view
keep
a
secret
hold
the
enemy
at
bay
safeguard |
look
listen
treat
fight
kick
hunt
aim
scan |
feel
a
pain
itch |
※『心の概念』邦訳291頁の「痛みや針が刺さったときの感じなどの感覚器官による感覚」は誤訳。正しくは「・・・の臓器感覚」。
2.3 傾向性語
- 砂糖は水溶性をもつ
iff もし砂糖を水に入れるなら、砂糖は溶けるだろう
- 太郎は氷が薄いと信じている
iff もし太郎が氷は薄いかと問われたなら、そうだと答えるだろう、かつ、もし氷の上にいたら、飛び跳ねないだろう、かつ云々
2.4 半ば傾向的エピソード動詞
- ツバメが渡っている。
- 砂糖が溶けている。
- 太郎は注意深く運転した。
2.5 達成動詞
- 試みの成功を意味する。(vs. 失敗語)
- got it型: 瞬間的
- keeping型: 進行的
got it 型
seeingやhearingは過程ではない。アリストテレ
スは、まさしく的確に、「I see it」と言えるやいなや「I have seen it」と言えることを指摘している。(Ryle 1954 邦訳167頁)
A φs ⇒ A has φed
keeping型
- ライルはkeeping型の達成動詞の例示はしても、その説明をほとんどしていない。
- そのせいか、ライルの達成動詞についての解説では、keeping型は無視されたり、達成動詞ではないと誤解されることが多い。
(例1) Crowther
(2009)
Though they are occurrences, or events, achievements do not take time in the way that tasks do: they are instantaneous or durationless happenings that consists in mere change in, or of, something. (p. 175)
(例2) Dowty (1979)
Achievements, such as win, unearth, find, convince, prove, cheat, unlock, etc., are properly described as happening at a particular moment, while activities such as keep (a secret), hold (the enemy at bay), kick, hunt, listen, may last through a long period of time. (p. 51)
2.6 仕事動詞
- 何がしかの達成のための試みを意味する。
- 達成動詞と違い、留意を表わす副詞(carefully, attentivelyなど)によって修飾できる。もっとも、この副詞テストは日本語訳では通用しない。
2.7 仕事と達成の関係
闘って勝った
旅立ち到着した
処置して治した
蹴って得点をあげた
耳を傾けると聞こえた
目を向けると見えた
これらのそれぞれにおいて、二つの事柄が行なわれたわけではない。行なわれたのは仕事のみ。
2.8 got it型の達成は瞬間的事象ですらない?
知覚動詞は競技者の語彙に属するのではなくむ
しろ審判者の語彙に属する。(Ryle 1949 邦訳216頁)
達成や失敗は行為、努力、作業、遂行などではなく、(中略)ある行為、努力、作業、遂行がある結果をもたらしたという事実である。(Ryle 1949 邦訳214頁)
seeという動詞は、私の生涯の物語の下位区間を表示しない。(Ryle 1960 邦訳169頁)
3. ヴェンドラーとケニーの動詞分類──アスペクトまでもう一歩
3.1 ヴェンドラーの4分類
| 状態
states |
達成
achievements |
活動
activities |
到達
accomplishments |
| 進行形なし |
進行形あり |
| How
long
型 |
At
what
moment
型 |
For
how
long
型 |
How
long
did
it
take
型 |
know
believe
love
desire
want
hate
dominate |
recognize
find
reach the hilltop
win
start/stop/resume
be born/died |
run
eat
swim
push a cart |
run
a
mile
eat
an
apple
paint
a
picture
grow
up
recover
from
illness |
|
|
原理的には
時間的限界なし |
時間的限界あり |
3.2 Kenny の3分類
状態
states |
活動
activities |
遂行
performances |
| 真正の進行形なし |
真正の進行形あり |
understand
know
believe
hope
intend
love
mean
fear
exist
be
able
be
blue
perceive
be
taller
than |
listen to
keep
a
secret
weep
laugh
talk
enjoy
live
at
Rome
stroke
ponder
on |
discover
learn
find
kill
convince
grow
up
think
out
build
a
house
wash
cut
lift
decide
whether |
ケニーのアリストテレス・テスト
| 状態動詞 |
A φs ⇒ A has φed |
エネルゲイア
動詞 |
| 活動動詞 |
A
is
φing
⇒
A
has
φed |
| 遂行動詞 |
A
is
φing
⇒
A
has
not
φed |
キネーシス
動詞 |
He loves her ⇒ He has loved her
He is walking ⇒ He has walked
He is building a house ⇒ He has not build a house
3.3 ライルとの対応づけ
| |
ライル |
ヴェンドラー |
ケニー |
行
為
論
の
存
在
論
的
カ
テ
ゴ
リ
| |
傾向性 |
状態 |
状態
know |
| 達成 |
keeping型 |
活動
keep
a
secret |
| got
it型 |
達成 |
遂行 cure |
| 仕事 |
到達
(got it型の達成+仕事) |
| 進行中の到達 |
進行中の遂行 |
3.4 ムレラトス(Mourelatos 1978)の批判と整理
動詞アスペクト
Taro was reading when I entered.
(私が入ったとき太郎は本を読んでいた。)
主文: 活動、未完成 imperfective
副文: 達成、完成 perfective
例外的用法?
- And then suddenly I knew ! 達成
- I'm understanding more about Ryle's philosophy as each day goes by. 活動
- Once I understood (grasped) what Ryle's intentions were, I lost all interest in him. 遂行or到達
No!
- 動詞タイプの分類に拘るかぎり、これらの例は例外的用法とされるしかない。
- ヴェンドラーやケニーが動詞タイプの分類によって捉えようとしていた言語現象は、言語学で言うところの動詞アスペクトに相当するが、それは動詞述定タイプの分類によって捉えられるべきである。
トピック中立性
- (おそらくライルも含め)ヴェンドラーやケニーの議論は行為者性の領域に限定されすぎている。
- しかし彼らの議論には、より広い存在論的含意がある。
例
The tree is falling down. 過程(未完成)
The tree fell down. 出来事(完成)
I saw him cross the street. 出来事(完成)
I'm hearing buzzing sounds. 過程(未完成)
※知覚自体は行為者性の発揮、つまり行為ではない。
ムレラトスの述定分類

3.5 ヴェンドラー=ケニーが残したテーマ
到達(発展)と活動(過程)の区別の規準は何か?
- telicity
- 均質性
homogeneity
- 未完成パラドックス
imperfective
paradox
- 物的対象とその素材の区別とのアナロジー
telicity
- その本性によって決まる終端に向かって進行する。
→ telicな非単時的事象=到達/発展
- その終端はその本性によって決まるものではなく、原理的には際限なく進行しうる。
→ atelicな非単時的事象=活動/過程
例
- 家を建てるという進行中の到達は、家を立て終わるという終端に向けて展開している。
- 歩き回るという過程には、そうした意味での終端はない。
均質性
x は期間yのあいだφした ⇒ yの任意の時点においてxはφした
- telic → 非均質的
- atelic → 均質的
例
- 活動
- 太郎が1時間歩いたなら、その間の任意の時点において太郎は歩いたと言える。
- 到達
- 太郎が1時間かけて学校まで歩いたとしても、その間の任意の時点において太郎は学校まで歩いたとは言えない。
未完成パラドックス
事象動詞「φする」について
「xはφしていた ⇒ xはφした」
が成り立たない。
- telic → 未完成パラドックスあり
- atelic → 未完成パラドックスなし
例
- 到達
- 太郎が学校まで歩いていたからといって、 その時点において太郎が学校まで歩いたとは言えない。
- 活動
- 太郎が歩いていたなら、太郎は歩いたと言える。
物的対象とその素材の区別とのアナロジー
| 個別者(particular) |
非個別者(non-particular) |
個別者? |
| 物的対象
一体の銅像
|
空間的素材
銅(非可算)
|
空間的境界
銅像とその周囲を区切る
|
到達/発展
(非単時的出来事)
学校まで歩いたという一回の到達
|
時間的素材
歩くという活動/過程
(非可算)
|
時間的境界
学校まで歩いたという到達とその前後を区切る
出発と到着
|
先述のMourelatos (1978)は、空間的素材と時間的素材のアナロジーを強調した初期の代表的文献の一つでもある。
補足
- これらの規準には問題もある。コンパクトな概観としては、Crowther (2011)を参照。そこでの彼の主眼は規準(4)の修正発展にある。素材(非個別者)とその塊(個別者)の区別を強調。
- ライルとの関連で言えば、規準(4)の「時間的境界としての達成」は、got it型の達成を事象とはしないライルの考えと符合するかもしれない。
4. アリストテレスとアスペクト──その微妙な関係
- ライル以降のアスペクト論の展開を見るには必ずしもアリストテレスにまで遡る必要はない。
- しかし、気になる向きも少なくないと思う。
- そこで、素人ながら、アリストテレス解釈とアスペクト論の関係を少し整理。
『形而上学』第9巻第6章
ひとは、ものを見ているときに同時にまた見ておったのであり、思慮しているときに同時に思慮しておったのであり、思惟しているときに同時に思惟していたのである。これに反して、何かを学習しているときにはいまだそれを学習し終わってはおらず、健康にされつつあるときには健康にされ終わってはいない。(中略)[瘠せること、学習すること、歩行すること、建築することなど]は運動であり、しかもたしかに未完了的である。というのは、ひとは歩行しつつあると同時に歩行し終わってはおりはせず、またかれは家を立てつつあると同時に立て終わっておりはしない[からである]。
あくまで邦訳は参考。
4.1 エネルゲイアとキネーシスの区別
プラクシス 行為=広い意味でのdo
エネルゲイア
現実態 |
キネーシス
運動 |
see
be
wise
understand
be
happy
live
well
be
pleased |
reduce
become
healthy
learn
walk(to somewhere)
build
a
house
move |
英訳もあくまで参考
アリストテレスの完全性テスト
- エネルゲイア(現実態):
行為がそれ自らのうちにその終わり/目的を含んでいるなら、その行為は完全である。
- キネーシス(運動):
行為がそれ自らのうちにその終わり/目的を含んでいないなら、その行為は不完全である。
ケニーのアリストテレス・テストと似ている?
| エネルゲイア |
進行中 |
完全(完了) |
| キネーシス |
進行中 |
不完全(未完了) |
4.2 ムレラトスの回顧
1950年代のオックスフォードの哲学者たちは動詞タイプの区別に関心を示したが、この関心が演習でのキネーシス/エネルゲイアの区別に関する議論に端を発するというのは、まったくありそうなことである。しかし残念なことに、ある時期、アリストテレスの区別は遂行(到達か達成のどちらか)と活動に関するケニー=ヴェンドラーの区別を予示しているという見解が広まってしまった。だが、ケニー=ヴェンドラーの区別への同化をやめるよう、当初から研究者たちに警鐘を鳴らしていたはずの明快な特徴が、アリストテレスの区別にはある。(Mourelatos 1993)
活動はエネルゲイアか?
|
アクリル
ヴェンドラー |
ケニー |
ライル |
グラハム
ムレラトス |
| エネルゲイア |
活動 |
活動
状態 |
got
it
型の達成
(keeping型も?) |
状態 |
| キネーシス |
到達 |
遂行 |
仕事 |
遂行
(出来事) |
- walkingはヴェンドラー、ケニーにとって活動(過程)の典型例だが、アリストテレスはwalkingをキネーシスに分類していたことに注意。
- アクリルとグラハムはアリストテレス研究者。
autotelic vs. heterotelic
| |
(ライル=)ヴェンドラー=ケニー |
ムレラトス(1993) |
| エネルゲイア |
atelic |
autotelic |
| キネーシス |
telic |
heterotelic |
- heterotelic:
- その目的は一過性のものであり、その充足は外在的であり、あるいは偶然的でさえある。
- autotelic:
- それへの従事であると同時に、この従事によって直接与えられる充足でもある。目的は内在的であり、よりよい完了と成就が成し遂げられている。
5. 哲学へのアスペクトの再導入──知覚の哲学の場合
哲学におけるアスペクト論の近年の再評価
- 厳密に言えば、哲学と言語学のインターセクション(形式意味論)以外での再評価
- 概観:Steward(1997)
- 行為の哲学:Thompson
- 知覚の哲学:Crowther
- ライルへの言及が頻繁にあるのはCrowtherなので、以下では彼の立場を紹介。
クラウザーの知覚的活動論 (Crowther 2009)
- 5.1 知覚的活動と知覚(perceptual activity and perception)
- 5.2 ライル型の道具的説明
- 5.3 クラウザーの説明
- 5.4 コメント
5.1 知覚的活動と知覚
- 耳を傾けたり(listen to)、注視したり(watch)、
熟視したり(look at)する場合、その対象は知 覚されている。
- 聞き耳を立てたり(listen(out) for)、見張ったり(watch out for)、目で探したり(look for)する場合、その対象はまだ知覚されていない。
知覚的文脈における能動性と受動性
| 知覚的活動 |
知覚 |
| 行為者性の発揮/能動的 |
受動的 |
| 探索型 |
非探索型 |
look for
watch
out
for
listen
(out)
for |
look
at
watch
listen
to |
see(見える)
hear(聞こえる) |
含意関係(entailment)
5.2 ライル型の道具的説明
- listening to O は、hearing O を目的とする聴覚的仕事(手段/道具)である。
- listening to O を listening for O という聴覚的探索の成功とみなすことで、 含意関係を説明する。
難点
- listening for O という探索/仕事はその成功/達成であるhearing O とともに終わるが、 listening to O はそうではない。
- listen to O している期間にわたって hear O である。(Oに耳を傾けているあいだ O が聞こえる。)
教訓:アスペクト論の導入
|
アスペクト的カテゴリー |
| listening
out
for
O
+
hearing
O |
到達(仕事+達成) |
道具的/telic |
| listening
to
O |
過程 |
非道具的/atelic |
ただし、ケニー=ヴェンドラーと違い、クラウザーにとって活動は到達と過程の両方を含む。
5.3 クラウザーの説明
- 一定期間のあいだ listen to O することは、その 期間のあいだ O が聞こえるという聴覚的接触状態を維持する過程である。
- 維持する≠引き起こす
- 聴覚的、より一般的に知覚的接触状態それ自体は過程や出来事ではないが、 時間的に展開する過程的知覚の生起を含意する。
維持(maintenance)
- 維持する ≠ 引き起こす(cause)、生み出す(produce)
- listening to O ⇒ hearing O という含意は、atelicな知覚的活動によるこうした維持によって説明される。
知覚状態
- 維持される知覚状態それ自体は過程や出来事ではないが、時間において展開する過程的な知覚事象の生起を含意する。
- この点で、listening to O とペアになる hearing O は、信念のような非事象的状態とは異なる。
5.4 コメント
(1)
クラウザーの議論は、ライルにおける仕事動詞の多義性にメスを入れているとも考えられる。
- 多義性:
- listen to か listen forか、look for か look at か etc.
- ただし、『心の概念』第7章「感覚と観察」では、 listen forとlisten toの区別が比較的明瞭。
(2)
- しかし、クラウザーの立場には、彼が気づいていないライルとの接点がある。
- keeping型の達成は、クラウザーの枠組で言えば、非探索型の知覚的活動によって維持される知覚状態に相当するのではないか?
- 維持される知覚状態は、ライル的には、keeping型の達成として事象のカテゴリーに入るように見える。
- 他方で、過程的な事象の生起を含意するがそれ自体は過程や出来事ではないという特徴は、keeping型の知覚的達成を事象とみない理由となるかもしれない。
(口頭で)
- Ackrill. J. L. (1965) “Aristotle’s Distinction Between Energeia and Kinesis”, R. Bambrough (ed.) New Essays on Plato and Aristotle, Routledge.
- Comrie, B. (1976) Aspect, CUP.
- Crowther, T. (2009) “Perceptual Activity and the Will”, in L. O’Brien and M. Soteriou (eds.) Mental Actions, OUP.
- ―. (2011) , Review of Metaphysics 65.
- Dowty, D. (1979) Words, Meaning and Montague Grammar, D. Reidel.
- Graham, D. W. (1980) , Philosophical Quarterly 30.
- Kenny, A. (1963) Action, Emotion and Will (Ch7), Routledge.
- Mourelatos, A. (1978) , Linguistics and Philosophy 2.
- ―. (1993) , Canadian Journal of Philosophy 23.
- Rödl, S. (2012) Categories of the Temporal: A Inquiry into the Forms of the Finite Intellect, trans. Silbylle Salewski, HUP. (Originally published as Kategorien des Zeitlichen: Eine Untersuchung der Formen des endlichen Verstandes, 2005.)
- Ryle, G. (1949) The Concept of Mind, Ch5, 7.
- ―. (1954) “Perception” in his Dilemmas, CUP.
- Stewart, H. (1997) The Ontology of Mind: Events, Processes and States (Ch3), OUP.
- Thompson, M. (2008) Life and Action, HUP.
- Vendler, Z. (1957) , Philosophical Review 67.
- アリストテレス『形而上学』(岩波『アリストテレス全集12』)
- 工藤真由美、八亀裕美(2008)『複数の日本語 方言からはじめる言語学』講談社選書メチエ
今回言及できなかったが有益な文献
- 柏端達也(1999)『年報人間科学』20-1
- 到達動詞(完遂動詞)と imperfective paradox について独自の考察がある。
- 藤澤令夫(1980)「現実活動態」『イデアと世界』『藤澤令夫著作集』所収
- ライルのアリストテレス解釈やアクリル、ヴェンドラーへの言及がある。(ただし、入手が遅れたため、今回はしっかりと目を通せず。)
- Soteriou, M. (2013) The Mind's Construction: The Ontology of Mind and Mental Action, OUP.
- Crowther と同じく、知覚状態の観念(それ自体は出来事や過程ではないが過程的知覚の生起を含意する状態という観念)の擁護に取り組んでいる。