日曜社会学 - ルーマン・フォーラム / エスノメソドロジー番外地

Sunday sociology - Luhmann Forum / Ethnomethodology: on the edge of nowhere
2016.12.30 公開 2016.12.30 更新

社会学研究互助会08 - ギルバート・ライルの現象学と 概念分析の社会学 エスノメソドロジー

この頁には、2014年03月01日 ならびに 2016年12月25日に開催した 社会学研究互助会例会(第8&9回)の告知文と配布資料を掲載しています。

  ギルバート・ライルの現象学 ピーターウィンチの『理念』  
  研究会概要と趣旨
  小宮友根「エスノメソドロジーにおけるライル」 浦野 茂「エスノメソドロジーにおける『理念』」  
  植村玄輝「ライルと現象学」 山田圭一「アプリオリな概念分析とはどのようなものか?」
» 村井忠康「ライルとアスペクト」 笠木雅史「分析哲学の伝統における概念分析」  

「ライルとアスペクト(相)」
村井忠康(お茶の水女子大学非常勤講師)

村井報告
1. なぜライルに戻るのか──私の場合
2. ライルの動詞分類──達成動詞と仕事動詞
3. ケニーとヴェンドラーの動詞分類──アスペクトまでもう一歩
4. アリストテレスとアスペクト──その微妙な関係
5. 哲学へのアスペクトの再導入──知覚の哲学の場合
6. まとめ
文献
討議
質疑応答

1. なぜライルに戻るのか──私の場合

きっかけ

    • ライルと言えば行動主義。ところが、、、
      ライルは行動主義者であるという考えは、ライルを読んだことのない人にしか思い浮かばない。(Rödl 2012(2005),p. 5 n3)
      数多の教科書風の解説に満足せず、ちゃんと『心の概念』を読まなくては!
    • 行為論を勉強していると、、、
      企図、意図、望み(wanting)の基本的対象を述べる言語表現が表示するのは、ライル、ケニー、ヴェンドラーが到達や遂行などさまざまな名称で呼んできたものである。今やこの伝統は、言語学者のあいだにしか生き残っていないように見える。(Thompson 2008, p. 123)

トンプソンの引用を少し解説

アスペクトとは?──簡単な例示から
I was walking to school.
           (私は学校まで歩いていた。)
I walked to school.
           (私は学校まで歩いた。)

どちらも過去形なので違いはテンスによるものではない。この違いを伝えるのがアスペクト。

テンス(時制)

ある時点(通常は発話時点)を基準として状況を時間上に位置づける。

Taro was taller than Hanako. 過去
Taro is taller than Hanako.  現在
アスペクト(相)

状況の内的な時間的構造を伝える。

I was walking to school.     過程(活動)
The tree was falling down.    過程
I walked to school.        行為
The tree fell down.        出来事
※英語の perfectはsimple past とともに、perfective な内容の出来事報告に使えるが、perfect と perfective は区別されなければならない。
日本語標準語のアスペクト・テンスのシステム(二項対立型)
テンス \ アスペクト 完成 perfective 進行(未完成 imperfective)/結果
現在 × シテイル
過去 シタ シテイタ
進行相と結果相のアスペクトマーカーが同じ。
(進行相) 木が倒れている。
(結果相) 木が倒れている。
広島弁のテンス・アスペクトのシステム(三項対立型)
テンス \ アスペクト 完成 進行(未完成) 結果
現在 × ショール シトル
過去 シタ ショッタ シトッタ
進行相と結果相のアスペクトマーカーが異なる。
(進行相) 木が倒れよーった。
(結果相) 木が倒れとった。

ライルをどう読むか

今日の発表での問い

見取り図:アスペクト概念の系譜

見取り図:アスペクト概念の系譜

2. ライルの動詞分類──達成動詞と仕事動詞

2.1 ライルの存在論

ライルの存在論

「状態」についての注意

ライルにおける傾向性と事象の区別は、現代では、大雑把に言えば、状態と事象の区別であると考えられている。 
(例) ライル 現代
信念 傾向性 状態
痛みの感覚 事象 事象

単なる用語法上の問題か?

2.2 ライルの動詞分類

傾向性語 エピソード語
半ば傾向性
動詞
達成動詞
achievement verbs
仕事動詞
task verbs
その他
わかった動詞
got it verbs
保持動詞
keeping verbs
臓器感覚動詞
organic sensation verbs
be a migrant
be soluble
know
believe
migrate
dissolve
see
hear
cure/heal
win
sore
find
hit
prove
solve
keep in view
keep a secret

hold the enemy at bay

safeguard
look
listen
treat
fight
kick
hunt
aim
scan
feel a pain
itch

※『心の概念』邦訳291頁の「痛みや針が刺さったときの感じなどの感覚器官による感覚」は誤訳。正しくは「・・・の臓器感覚」。

2.3 傾向性語

2.4 半ば傾向的エピソード動詞

2.5 達成動詞

got it 型

seeingやhearingは過程ではない。アリストテレ スは、まさしく的確に、「I see it」と言えるやいなや「I have seen it」と言えることを指摘している。(Ryle 1954 邦訳167頁)
A φs ⇒ A has φed

keeping型

(例1) Crowther (2009)
Though they are occurrences, or events, achievements do not take time in the way that tasks do: they are instantaneous or durationless happenings that consists in mere change in, or of, something. (p. 175)
(例2) Dowty (1979)
Achievements, such as win, unearth, find, convince, prove, cheat, unlock, etc., are properly described as happening at a particular moment, while activities such as keep (a secret), hold (the enemy at bay), kick, hunt, listen, may last through a long period of time. (p. 51)

2.6 仕事動詞

2.7 仕事と達成の関係

闘って勝った
旅立ち到着した
処置して治した
蹴って得点をあげた
耳を傾けると聞こえた
目を向けると見えた

これらのそれぞれにおいて、二つの事柄が行なわれたわけではない。行なわれたのは仕事のみ。

2.8 got it型の達成は瞬間的事象ですらない?

知覚動詞は競技者の語彙に属するのではなくむ しろ審判者の語彙に属する。(Ryle 1949 邦訳216頁)
達成や失敗は行為、努力、作業、遂行などではなく、(中略)ある行為、努力、作業、遂行がある結果をもたらしたという事実である。(Ryle 1949 邦訳214頁)
seeという動詞は、私の生涯の物語の下位区間を表示しない。(Ryle 1960 邦訳169頁)
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3. ヴェンドラーとケニーの動詞分類──アスペクトまでもう一歩

3.1 ヴェンドラーの4分類

状態 states 達成 achievements 活動 activities 到達 accomplishments
進行形なし 進行形あり
How long 型 At what moment 型 For how long 型 How long did it take 型
know
believe
love
desire
want
hate
dominate
recognize
find
reach the hilltop
win
start/stop/resume
be born/died
run
eat
swim
push a cart
run a mile
eat an apple
paint a picture
grow up
recover from illness
原理的には 時間的限界なし 時間的限界あり

3.2 Kenny の3分類

状態
states
活動
activities
遂行
performances
真正の進行形なし 真正の進行形あり
understand
know
believe
hope
intend
love
mean
fear
exist
be able
be blue
perceive
be taller than
listen to
keep a secret
weep
laugh
talk
enjoy
live at Rome
stroke
ponder on
discover
learn
find
kill
convince
grow up
think out
build a house
wash
cut
lift
decide whether

ケニーのアリストテレス・テスト

状態動詞 A φs ⇒ A has φed エネルゲイア 動詞
活動動詞 A is φing ⇒ A has φed
遂行動詞 A is φing ⇒ A has not φed キネーシス 動詞
He loves her ⇒ He has loved her
He is walking ⇒ He has walked
He is building a house ⇒ He has not build a house

3.3 ライルとの対応づけ

  ライル ヴェンドラー ケニー












傾向性 状態 状態
know
達成 keeping型 活動
keep a secret
got it型 達成 遂行
cure
仕事 到達
(got it型の達成+仕事)
進行中の到達 進行中の遂行

3.4 ムレラトス(Mourelatos 1978)の批判と整理

動詞アスペクト

Taro was reading when I entered.
(私が入ったとき太郎は本を読んでいた。)

主文: 活動、未完成 imperfective
副文: 達成、完成 perfective

例外的用法?
  1. And then suddenly I knew !  達成
  2. I'm understanding more about Ryle's philosophy as each day goes by.  活動
  3. Once I understood (grasped) what Ryle's intentions were, I lost all interest in him.  遂行or到達
No!

トピック中立性

The tree is falling down.  過程(未完成)
The tree fell down.     出来事(完成)
I saw him cross the street. 出来事(完成)
I'm hearing buzzing sounds. 過程(未完成)

※知覚自体は行為者性の発揮、つまり行為ではない。

ムレラトスの述定分類

ムレラトスの述定分類

3.5 ヴェンドラー=ケニーが残したテーマ

到達(発展)と活動(過程)の区別の規準は何か?
  1. telicity
  2. 均質性 homogeneity
  3. 未完成パラドックス imperfective paradox
  4. 物的対象とその素材の区別とのアナロジー

telicity

均質性

x は期間yのあいだφした ⇒ yの任意の時点においてxはφした
活動
太郎が1時間歩いたなら、その間の任意の時点において太郎は歩いたと言える。
到達
太郎が1時間かけて学校まで歩いたとしても、その間の任意の時点において太郎は学校まで歩いたとは言えない。

未完成パラドックス

事象動詞「φする」について
   「xはφしていた ⇒ xはφした」
が成り立たない。
到達
太郎が学校まで歩いていたからといって、 その時点において太郎が学校まで歩いたとは言えない。
活動
太郎が歩いていたなら、太郎は歩いたと言える。

物的対象とその素材の区別とのアナロジー

個別者(particular) 非個別者(non-particular) 個別者?
物的対象

一体の銅像

空間的素材

銅(非可算)

空間的境界

銅像とその周囲を区切る

到達/発展
(非単時的出来事)

学校まで歩いたという一回の到達

時間的素材

歩くという活動/過程
(非可算)

時間的境界

学校まで歩いたという到達とその前後を区切る

出発と到着

先述のMourelatos (1978)は、空間的素材と時間的素材のアナロジーを強調した初期の代表的文献の一つでもある。

補足

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4. アリストテレスとアスペクト──その微妙な関係

『形而上学』第9巻第6章
ひとは、ものを見ているときに同時にまた見ておったのであり、思慮しているときに同時に思慮しておったのであり、思惟しているときに同時に思惟していたのである。これに反して、何かを学習しているときにはいまだそれを学習し終わってはおらず、健康にされつつあるときには健康にされ終わってはいない。(中略)[瘠せること、学習すること、歩行すること、建築することなど]は運動であり、しかもたしかに未完了的である。というのは、ひとは歩行しつつあると同時に歩行し終わってはおりはせず、またかれは家を立てつつあると同時に立て終わっておりはしない[からである]。
あくまで邦訳は参考。

4.1 エネルゲイアとキネーシスの区別

プラクシス 行為=広い意味でのdo
エネルゲイア
現実態
キネーシス
運動
see
be wise
understand
be happy
live well
be pleased
reduce
become healthy
learn
walk(to somewhere)
build a house
move
英訳もあくまで参考

アリストテレスの完全性テスト

ケニーのアリストテレス・テストと似ている?

エネルゲイア 進行中 完全(完了)
キネーシス 進行中 不完全(未完了)

4.2 ムレラトスの回顧

1950年代のオックスフォードの哲学者たちは動詞タイプの区別に関心を示したが、この関心が演習でのキネーシス/エネルゲイアの区別に関する議論に端を発するというのは、まったくありそうなことである。しかし残念なことに、ある時期、アリストテレスの区別は遂行(到達か達成のどちらか)と活動に関するケニー=ヴェンドラーの区別を予示しているという見解が広まってしまった。だが、ケニー=ヴェンドラーの区別への同化をやめるよう、当初から研究者たちに警鐘を鳴らしていたはずの明快な特徴が、アリストテレスの区別にはある。(Mourelatos 1993)

活動はエネルゲイアか?

アクリル
ヴェンドラー
ケニー ライル グラハム
ムレラトス
エネルゲイア 活動 活動
状態
got it 型の達成
(keeping型も?)
状態
キネーシス 到達 遂行 仕事 遂行
(出来事)

autotelic vs. heterotelic

(ライル=)ヴェンドラー=ケニー ムレラトス(1993)
エネルゲイア atelic autotelic
キネーシス telic heterotelic
heterotelic:
その目的は一過性のものであり、その充足は外在的であり、あるいは偶然的でさえある。
autotelic:
それへの従事であると同時に、この従事によって直接与えられる充足でもある。目的は内在的であり、よりよい完了と成就が成し遂げられている。
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5. 哲学へのアスペクトの再導入──知覚の哲学の場合

哲学におけるアスペクト論の近年の再評価

クラウザーの知覚的活動論 (Crowther 2009)

5.1 知覚的活動と知覚
知覚的文脈における能動性と受動性
知覚的活動 知覚
行為者性の発揮/能動的 受動的
探索型 非探索型
look for
watch out for
listen (out) for
look at
watch
listen to
see(見える)
hear(聞こえる)
含意関係(entailment)
5.2 ライル型の道具的説明
難点
教訓:アスペクト論の導入
アスペクト的カテゴリー
listening out for O + hearing O 到達(仕事+達成) 道具的/telic
listening to O 過程 非道具的/atelic

ただし、ケニー=ヴェンドラーと違い、クラウザーにとって活動は到達と過程の両方を含む。

5.3 クラウザーの説明
維持(maintenance)
知覚状態
5.4 コメント
(1)

クラウザーの議論は、ライルにおける仕事動詞の多義性にメスを入れているとも考えられる。

多義性:
listen to か listen forか、look for か look at か etc.
ただし、『心の概念』第7章「感覚と観察」では、 listen forとlisten toの区別が比較的明瞭。
(2)
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6. まとめ

(口頭で)

文献

Ackrill. J. L. (1965) “Aristotle’s Distinction Between Energeia and Kinesis”, R. Bambrough (ed.) New Essays on Plato and Aristotle, Routledge.
Comrie, B. (1976) Aspect, CUP.
Crowther, T. (2009) “Perceptual Activity and the Will”, in L. O’Brien and M. Soteriou (eds.) Mental Actions, OUP.
―. (2011) “The Matter of Events”, Review of Metaphysics 65.
Dowty, D. (1979) Words, Meaning and Montague Grammar, D. Reidel.
Graham, D. W. (1980) “States and Performances: Aristotle's Test”, Philosophical Quarterly 30.
Kenny, A. (1963) Action, Emotion and Will (Ch7), Routledge.
Mourelatos, A. (1978) “Events, Processes and States”, Linguistics and Philosophy 2.
―. (1993) “Aristotle’s kinesis/energeia Distinction”, Canadian Journal of Philosophy 23.
Rödl, S. (2012) Categories of the Temporal: A Inquiry into the Forms of the Finite Intellect, trans. Silbylle Salewski, HUP. (Originally published as Kategorien des Zeitlichen: Eine Untersuchung der Formen des endlichen Verstandes, 2005.)
Ryle, G. (1949) The Concept of Mind, Ch5, 7.
―. (1954) “Perception” in his Dilemmas, CUP.
Stewart, H. (1997) The Ontology of Mind: Events, Processes and States (Ch3), OUP.
Thompson, M. (2008) Life and Action, HUP.
Vendler, Z. (1957) “Verbs and Times”, Philosophical Review 67.
アリストテレス『形而上学』(岩波『アリストテレス全集12』
工藤真由美、八亀裕美(2008)『複数の日本語 方言からはじめる言語学』講談社選書メチエ

今回言及できなかったが有益な文献

柏端達也(1999)「行為と進行表現」『年報人間科学』20-1
到達動詞(完遂動詞)と imperfective paradox について独自の考察がある。
藤澤令夫(1980)「現実活動態」『イデアと世界』『藤澤令夫著作集』所収
ライルのアリストテレス解釈やアクリル、ヴェンドラーへの言及がある。(ただし、入手が遅れたため、今回はしっかりと目を通せず。)
Soteriou, M. (2013) The Mind's Construction: The Ontology of Mind and Mental Action, OUP.
Crowther と同じく、知覚状態の観念(それ自体は出来事や過程ではないが過程的知覚の生起を含意する状態という観念)の擁護に取り組んでいる。
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質疑応答

村井
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村井
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