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毛利康俊論文集 出版前検討会

このコーナーの収録物一覧 著者 毛利康俊さん(序章構想)
  評者 小宮友根さん阿部信行さん大森貴弘さん
  司会 酒井泰斗さん
  記録 当日のディスカッションの一部

このコーナーには、2009年08月10日に青山学院大学院大学にておこなった【毛利康俊論文集 出版前検討会】における配布資料を収録しています。
この頁には毛利康俊さんの配布資料を掲載しています。

『(仮)法秩序論のルーマン』(勁草書房近刊)序章案
2009.8.10 毛利康俊(西南学院大学法学部)

第一節 法秩序論の課題
第二節 ルーマン解釈の分岐点
第一款 社会システムと意識システム ― 要素、作動、メディア
第二款 システム間関係
第三款 全体社会
第四款 近代社会
第五款 理論の性格(本書第三章)
第三節 法秩序論の構図
第一款 法秩序の重畳構造
第二款 課題
第四節 法理論の位置
第一款 ルーマン自身のスタンス
第二款 法秩序論における合流
第五節 法化論
第一款 法理論の一般的問題としての法化‐非法化論
第二款 紛争処理(→本書第二章、第六章)
第三款 自律領域(→本書第四章)
 例 学校、医療、家族
第四款 社会国家(本書第一章、第六章)
第六節 ルーマン晩年における展開
第一款 当初の問題意識の活性化
第二款 問題領域
 家族(本書第四章)
 医療(本書第四章)
 リスク(本書第五章)

第一節 法秩序論の課題

内的編成
他の社会秩序との関係 ← 重点
社会全体のなかでの位置
人間の生のとっての意味

事実的、経験的、社会的 > 理念、価値、規範

 注 日本の法秩序論との関係
    尾高朝雄 円錐同心円モデル → 動態化
    井上茂 過程 法的推論も含む → コミュニケーション概念で豊富化
    田中成明 3類型モデル 法秩序にはらまれる緊張の類型的分析
             → 特定の問題領域に即して分析する手段の提供

第二節 ルーマン解釈の分岐点

第一款 社会システムと意識システム ― 要素、作動、メディア

時期区分 前期 要素 複雑性
     後期 オートポイエシス論 作動
     晩期 動的双相理論へ 作動と相即的なメディア変容
        → 波動モデル 作動としては重ならない
                メディアは重合的変容
意識システムと社会システム 
  作動は重ならないが、意味メディア上で重合 → 重合領域で相互浸透

第二款 システム間関係

基本イメージ 多数説   分離イメージ → 因果関係 → 制御論
       超少数説  重合イメージ ← 動的双相理論
                    → 社会的空間 : ザワメキ
                    → 「制御」は別の説明が必要
大きなシステム 特徴 長期的存続、多数関係者、高い匿名性、薄い情報の流通、
           類型的事態の反復的出来 → 「構造」成立
            重合領域 → 相互浸透 同時に 構造的カップリング

第三款 全体社会

初期の問題設定 
  規範的評価の基準 複雑性の増大 ← どこから?
       の対象 全体社会 性格 ×諸社会領域の単純和
                   〇パラドクス 部分にして全体
                     類似→フランクフルト第一世代
  全体社会の機能 マトマリの付与 = 複雑性の縮減
問題
 存在しうるか? ← パラドクス
 規範的評価の対象としての適性 意識システムとの関係 ・複雑性
                           ・包摂/排除
                自然環境との関係 インターフェースの適切性
 マトマリの付与 いかにして?
 規範的評価の基準と社会理論の関係は?
作動理論では 破綻
 ← 全体社会システムに固有の作動が同定できない
       ルーマン 諸社会システムの作動の合算であるかのよう
動的双相理論では 整合的に解釈できる
 存在 個々の作動によるメディア変容の重合 ← 個別システムには解消されない
 適性 全体社会 = 個別システムの作動の総合的効果 ⇔ 自然環境
         = 個別具体的な社会的事態 ⇔ 意識システム
 まとまりの付与 おのおののシステムからの同一化的指示
 基準 
   意味基底への遡及?    
      生活世界 パラドクス 部分にして全体
           意味基底 還元 基礎づけ 二段階 理性の目的論
            ↑
      無理 ← 同一化的指示 ; むしろ「生活世界」のほうが派生態
   環境‐適応図式? Ashby
      ルーマン自身が放棄
   社会理論からの解放
評価活動 局所的
     事後的 × 制御
         〇 発見的 偶然的出来事

第四款 近代社会

分化形式 機能分化 メリット 効率的遂行
          派生問題 ← 機能システムの独走 とくに経済システム
            システム的統合、社会的統合、エコロジー危機
パーソンズの場合  分解図式 AGIL → 規範的含意 
  システム的統合: I/O 均衡
  社会的統合: 価値コンセンサス
  エコロジー: 経済システム 再均衡 政治的制御(ミュンヒ)
ルーマンの場合 創発図式 分化の進行 拡張深化
  システム的統合 問題とならず ほぼ自動的に達成
    
  社会的統合 → 複雑性、包摂/排除
  エコロジー → 全体社会と自然環境
   ↑
  構造的カップリング=重合パターン ⇒ 社会システムの分節化的把握
                    立体的、大小波動、中心/周縁、まだら

第五款 理論の性格(本書第三章)

△ 命題や概念の集成
〇 作業手順
    ← 作業哲学としてのフッサール現象学 還元、主観極客観極の相関分析
    ← スペンサー=ブラウンの鍵算法 指図の体系としての数学
                     単純→複雑、反省
    ルーマン 一般→個別、抽象→具体
      * へーゲルの下降法、マルクスの上向法に類似 
        しかし弁証法的全体は想定されず

第三節 法秩序論の構図

第一款 法秩序の重畳構造

 全体社会 構造 「法」
      機能的サブシステム 「法システム」
 組織   「司法システム」
      政府組織、行為主体
 相互行為 「紛争システム」 法的相互行為 個別裁判手続

第二款 課題

内的編成    : それ自体の中で重合、行為主体
他の社会領域と : それ自体重合的な社会領域と構造的カップリング
          重要 ; 組織、制度、手続
全体社会の中で : 他の社会領域とともに個別具体的な社会的事態を構成
          反省的コミュニケーションの場の一つ
生身の人間   : 個別具体的な社会的事態の経験、反省的コミュニケーションの主体
  
    注: 規範    〇社会的側面
       制度    〇
       技術的側面 △ 未開拓の部分多し
       主体    × → 弟子のナッセヒ、タッケら?

第四節 法理論の位置

第一款 ルーマン自身のスタンス

法の社会学的観察 ≠ 法理論 ― 法学の基礎理論部門
法理論の位置づけ もともと 法システムの反省理論 ← 機能、遂行、反省
            ↑ ← 法システムの作動的把握
           維持困難 ← 法システムの内/外?
                    内 → × 外部観察の取り込み
                    外 → × 作動への反映
          最終的規定
             構造的カップリング 学問システムと反省理論の 
ルーマンの理論と法理論のかかわり
   断片的かつ偶然的 それぞれのシステムの歴史性
               学システムと法システム

第二款 法秩序論における合流

ルーマン理論から法理論への貢献・注文
  全体社会との関連を
  一種の批判理論として 機能分析、パラドクス論
法理論の側の受け入れ態勢
  準拠問題 独自設定、ウエイト変更
  パラドクス論 言われてみないとわからない
  記述面 精粗のバランス補正が必要

第五節 法化論

第一款 法理論の一般的問題としての法化‐非法化論

問題領域 紛争処理、自律領域、社会国家
概念   法秩序の拡大深化 同時に縮小浅化を伴うことも多い
       → 法秩序と他の社会領域の重合具合の変容の分析

第二款 紛争処理(→本書第二章、第六章)

従来の取り扱いの問題点
    法の機能? 社会統制 むしろ政治システムの問題
          紛争解決 個別裁判手続、せいぜい司法システムの問題
      「紛争解決は法の機能の一つ」
        → 法秩序全体に漠然と帰しているだけ → 諸作動の重合分析へ
       → 第一着手;ルーマンの個別的分析を文脈に応じて読解し重ねて読む
   ルーマンの著作の従来の読まれ方
    『手続を通じての正統化』 政治システムの問題なのに法理論の問題と読まれた
    『法システムと法解釈学』 司法システムと法解釈学の問題 
                 法秩序論全体のなかに位置づけて読む必要あり
    『社会の法』       オートポイエシス論だけが注目されているが、
                 機能システムとしての法が問題とされていることに注意
                 『法社会学』の「法」は全体社会の構造
   紛争処理過程
     記述面  紛争システム ADR 個別訴訟手続
          全体社会(個別具体的な社会的事態、構造、機能システム) 
     準拠問題 法理論の方で設定しなければならない
          民事訴訟の目的論 多元論や棚上げ論
           → 一つに決まらない、それらのバランスも決まっていない
          その設定次第で、かなり異なった結論が色々出てくる可能性アリ
         従来のルーマンの読まれ方 概念法学?
          しかしそれは機能システムとしての法に焦点をおいていたから
          また、概念法学の柔軟性の再評価(全体社会との往還、テキスト論)
         紛争システム、ADR、個別訴訟手続に重点をおいたら?
          システムセラピー的処理すら視野に入るはず
                  ← 『近代科学と現象学』
  いずれにせよ、紛争処理過程も諸作動の重合とみて、
  それらの作動に帰せられる諸機能の遂行をおのおのの場面で
  どのようにバランスさせるかという問題になるはず

第三款 自律領域(→本書第四章)

例 学校、医療、家族
  ↑
 いずれも法システム、政治システムと相性が悪い
 そこに具体的に目を向けるところにルーマン派システム論の意味がある
 知覚/身体(とくに医療、家族) ⇔ コミュニケーション
 コミュニケーションの行われる時と場所の疎隔(とくに教育)
  
いずれにせよ、「オートポイエシスだから自律的なんでコントロールできないよね」というようなふやけた話ではない 
ルーマンの理論は正しく理解されれば批判も利用も労苦を強いる

第四款 社会国家(本書第一章、第六章)

ルーマン派のアプローチ
  法システム、政治システムと他の社会領域の重合具合の変容
  準拠問題 複雑性、包摂/排除、エコロジー
 ドイツ法化論
  1970年代    規範の氾濫、法治国家の劣化(国法学など法律家)
  1980年代前半  法政策学:行政学的政策科学的アプローチ、データ収集
                各種機能不全、逆機能への着目
  1980年代後半~1990年代初めまで
    フランクフルト‐ブレーメン系:社会理論の投入
      参加者:R. ヴィートヘルターの「政治的法理論」の影響を受けた法学者
              トイプナー(私法)、ラデーア(公法)、プロイス(公法)
          それに関心をよせる社会理論家、社会哲学者
              ハーバーマス、マウス、エダー
     ヴィートヘルター自身
        フランクフルト学派第一世代の影響化で出発、国際私法、企業法
        その後、批判理論に、システム論や経済学を部分的に導入する方向
     ∴ 法化論争は、政治的法理論内部でのハーバーマス的批判理論と
       システム論その他のバランスをどうとるかという問題
    ↑
    位置づけ 通説 ハーバーマス=ルーマン論争反映説
         〇少数説 関係なし説(そんなのルーマンじゃない)
ルーマン自身の対応
 制御懐疑論? 機能システム≠行為主体
  行為主体に着目すれば
    制御が経験的条件により失敗したり成功したりするのは当たり前
    その経験的研究は可能だし有意味
  むしろ、選択の方向付け視点が「制御」の集約されることも問題を指摘
    制御 目標値との落差 → 目標値の切り上げ切り下げ、
                 投入資源のコントロール
           むしろ偶然から学ぶ姿勢の弱化
    断片的言及
     評価視点 全体社会レベルでの複雑性
     重合点 立法(法システムと政治システム)
     法化の問題点
      全体社会‐司法システム‐法解釈学のよき循環には時間必要(本書第二章)
      過度の社会国家化 → 上からの法形成、法解釈学的洗練の時間を奪う
  対応戦略
    コミュナル ハーバーマスら
    エンジニアリング トイプナーら
    リーガリスティック ルーマン自身
評価と展望
 フランクフルト‐ブレーメン系
  法と政治の一体的把握 ← 構造的カップリングが使えてないからしかたがない
   社会国家化の振り子につれて法も振り子運動をするだけ
   しかし、法と政治の関係付けは多様でありえ、法律家はそこで苦労している
    その苦労を法理論の次元で定着させるという課題の放棄
  時間の観点 偶然から学べない
 国法学的アプローチと法政策学的アプローチ
  具体的に事象を見ている点では、フランクフルト‐ブレーメン系より遥かにまし
  しかしそれらの素材を統合する視点にかける
 ルーマン自身
  枠組みとしては一番有望
  しかし、彼自身はそのポテンシャルを生かしていない
    評価視点      複雑性のみ 包摂/排除、エコロジーも
    構造的カップリング 重合点の組み方の多様性に具体的に配慮していない

第六節 ルーマン晩年における展開

第一款 当初の問題意識の活性化

時期 1980年代後半~没 『社会システム』『社会の・・』シリーズと並行
現象学的問題意識の再浮上
  意識(システム)、時間、身体、知覚
功なり名とげた学者晩年の筆すさびか?
  そうでもない 学問生活の最初期1960年代初頭
    メルロ=ポンティの仕事などをきっかけに
     世界的に後期フッサールの業績が再び注目を集めた時期
    アメリカのサイバネティクス会議の印象も強かった
  サイバネティクスと現象学に交点がある → ルーマンの出発点
時間 動的双相理論
    作動と重合的メディア変容 → 複数システムの同期化が問題に
   時間地平の変動 → リスク論
身体 コミュニケーションにも意識にも思うようにならない
    にもかかわらず不可欠
知覚 非線条的意味現象 ⇔ コミュニケーション
  
  ↓
いずれにしても「淡々と流れるコミュニケーションだけを扱っているルーマン」というイメージを大きく踏み越えるもの

第二款 問題領域  家族(本書第四章)  医療(本書第四章)  リスク(本書第五章)

家族(本書第四章)
 社会システム、コミュニケーション・システムとして捉える
  特徴 身体、知覚の介在
     全人格的包摂
 家族療法的リアリティー ⇔ 機能喪失テーゼ
 コミュニケーション・システムとしての純化/合理化 不可能、無意味
医療(本書第四章) 
 身体の存在感
 社会システムとして 合理化困難 時間秩序の崩壊
                 反省理論成立せず 積極値と目標の不一致
 不断のアドホックな調整の必要 人間の意識と身体
                家族、経済などの社会システム
リスク(本書第五章)
 意味の三次元 事項 不確実性 予想と事後の位置づけし
        ↓時間 時間地平の変動
          ↓社会性 帰属の問題
 一般的問題としてのリスク社会
   不断の再調整 人間と社会システム
          社会システム同士 → 構造的カップリングのパターンが重要
     しかも困難 ← リスクの心理学
 事例研究
  科学技術(本書第五章)
   真正ルーマン派内部の対立
     ルーマン自身(集権的決定司法的チェック)
          VS ヤップ(多様な参加者による多段階的決定)
   ↑
   分岐点が不明
    動的双相理論からの解釈
     彼ら自身充分に自覚していない 
      重合パターンの多様性、評価基準の多様性
   展望 重合パターンのパレットを整備し評価基準を明示しつつ論じる
全体として
  問題を単純化して明快な解を与える理論ではなく、
  問題の厄介さにきちんと直面させる理論としてのルーマン理論    
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