日曜社会学 - ルーマン・フォーラム | エスノメソドロジー番外地

Sunday sociology - Luhmann Forum / Ethnomethodology: on the edge of nowhere
2012-12-25 掲載

マイケル・リンチ『エスノメソドロジーと科学実践の社会学』マイケル・リンチ『エスノメソドロジーと科学実践の社会学』合評会

ここには、2012年12月22日(日)に東京大学にて開催した 社会学研究互助会第四回研究会「マイケル・リンチ『エスノメソドロジーと科学実践の社会学』合評会」における配布資料などを掲載しています。

このコーナーの収録物 中村 和生さん (配布資料
  伊勢田 哲治さん (配布資料 ) (討議)
  立石 裕二さん (配布資料) (討議) ←このページ
  全体討議摘要  

※本書の紹介ページがあります。あわせてご覧下さい。

エスノメソドロジーは「環境問題の科学社会学」に貢献しうるか?
―M・リンチ『エスノメソドロジーと科学実践の社会学』を読んで―
立石裕二(関西学院大学 社会学部 y_ttis[atmark]yahoo.co.jp

1 この発表のスタンス

1.1 手短な自己紹介

1.2 この発表の流れ

1.3 本書への全般的評価

1.4 私の立場との違い

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2 実験室の中へのアプローチ

2.1 「語るのをやめて、実験室へ行こう」(365)

2.2 鍵となるコンセプト(1章)

2.3 科学者の論文・回想は、リアルタイムの白熱した議論とは異なる(312)

2.4 科学社会学の諸アプローチに対するリンチの評価(表1)

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3 制度的/歴史比較的分析は不要(不可能)なのか?

3.1 「より広い」制度や共同体を論じるべきだとする主張への批判

3.2 私の考える制度分析の例

3.3 制度分析(研究現場を取り巻く制度的条件)や、研究現場どうしの比較、長期的変化の追跡はEMでは扱わない?

3.4 歴史家(や後日の当事者)には解釈の余地(自由裁量)がないという主張(326)

3.5 好みの問題だろうが、私は制度分析が必要だと思う

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4 実験室の中を研究する際、EMは最善のアプローチか?

4.1 エスノグラフィーの方法論としては、当事者の理解から断絶した立場はとれないことに同意

4.2 コリンズ(1983)によるGLL論文批判

4.3 自分が立ち入った現場だけで研究活動を捉えられるのか

4.4 当事者のインタビューをフィールドワークを補完するものとして重視するべきでは?

4.5 結局EMアプローチでも、論文から得た情報をもとに、科学者どうしの会話を理解するしかないのでは?

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5 「環境問題における批判的科学」研究への貢献は可能か?

5.1 安全圏からの批評ではつまらないので、自分の研究とどう関わるのか論じてみたい

5.2 私の研究の紹介:「長良川河口堰問題において、1990年代に科学者による自律的&批判的研究が活発になったのはなぜか?」

5.3 EMの視点からは、同じ現象をどのように分析できるのか?

5.4 科学知の生産ー利用関係への諸アプローチの比較

5.5 まず、どのような局面(現象)を分析対象とするか?

5.6 「科学の自律性」をどのように捉えるか?

5.7 EMでは、批判的視点に立った(主流派に反する見解についての)研究が困難?

5.8 いずれやってみたい!(そのときはよろしくお願いします)

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今回の報告にあたって読んだ文献

Collins, H. M. & R. Evans, 2002, "The Third Wave of Science Studies: Studies of Expertise and Experience", Social Studies of Science, 32(2): 235-96.
Collins, H., 1983, "An empirical relativist programme in the sociology of scientific knowledge", Knorr-Cetina, K. & M. J. Mulkay eds., Science observed : perspectives on the social study of science, Sage, 85-113.
Garfinkel, H. et al., 1981, "The work of a discovering science construed with materials from the optically discovered pulsar", Philosophy of the Social Sciences, 11(2): 131-58.
Jasanoff, S., 1990, The Fifth Branch: Science Advisers as Policymakers, Harvard University Press.
Krimsky, S., 2004, Science in the Private Interest: Has the Lure of Profits Corrupted Biomedical Research?, Rowman & Littlefield Publishers.(=宮田由紀夫訳,2006『産学連携と科学の堕落』海鳴社.)
Latour, B. & S. Woolgar, 1979, Laboratory Life: The Social Construction of Scientific Facts, Sage Publications.
Latour, B., 1987, Science in Action: How to Follow Scientists and Engineers through Society, Harvard University Press.(=川崎勝・高田紀代志訳,1999『科学が作られているとき――人類学的考察』産業図書.)
――――, 1999, Pandora's Hope: Essays on the Reality of Science Studies, Harvard University Press.(=川崎勝・平川秀幸訳,2007『科学論の実在――パンドラの希望』産業図書.)
Lynch, M., 1993, Scientific practice and ordinary action : ethnomethodology and social studies of science, Cambridge University Press.(=水川喜文・中村和生監訳,2012『エスノメソドロジーと科学実践の社会学』勁草書房.)
――――, 1998, "The Discursive Production of Uncertainty: The OJ Simpson 'Dream Team' and the Sociology of Knowledge Machine", Social Studies of Science, 28(5-6): 829-68.
MacKenzie, D., 1990, Inventing Accuracy: A Historical Sociology of Nuclear Missile Guidance, MIT Press.
前田泰樹ほか編,2007,『エスノメソドロジー ――人びとの実践から学ぶ』新曜社.
酒井泰斗ほか編,2009,『概念分析の社会学 ――社会的経験と人間の科学』ナカニシヤ出版.
佐藤俊樹,2011,『社会学の方法 ――その歴史と構造』ミネルヴァ書房.
Suchman, L. A., 1987, Plans and situated actions : the problem of human-machine communication, Cambridge University Press.(=佐伯胖ほか訳,1999『プランと状況的行為 ――人間-機械コミュニケーションの可能性』産業図書.)
Sudnow, D., 1967, Passing on : the social organization of dying, Prentice-Hall.(=岩田啓靖ほか訳,1992『病院でつくられる死 ――「死」と「死につつあること」の社会学』せりか書房.)
立石裕二,2011,『環境問題の科学社会学』世界思想社.
Wynne, B., 1996, "Misunderstood Misunderstandings: Social Identities and Public Uptake of Science", Irwin, A. & B. Wynne eds., Misunderstanding Science?: The Public Reconstruction of Science and Technology, Cambridge University Press, 19-46.(=立石裕二訳,2011「誤解された誤解――社会的アイデンティティと公衆の科学理解」『思想』1046: 64-103.)
Zuckerman, H., 1977, Scientific Elite: Nobel Laureates in the United States, Collier Macmillan.(=金子務監訳訳,1980『科学エリート――ノーベル賞受賞者の社会学的考察』玉川大学出版部.)
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図表

表1リンチによる科学社会学の諸理論に対する批判のまとめ(2〜3章)

 

論者

主張

リンチの批判(引用を含む)

EMの対案

1

マンハイム

相対主義ではない「相関主義」:歴史的比較によって一定の価値自由を可能にする(61)

(中立的な観察言語をめざす、実現不可能な取り組み)

A:社会を分析するには、その社会の言語を使い、その実践に組み込まれるしかない(相互反映性)

2

マートン

学問領域内部の革新は自律的に生じる(CUDOS規範の額面通りの解釈、報酬系)(77)

公言された規範(科学者の回顧的発言)と実際の行動ルールを区別していない(81)

B:事後的な再構築とは異なる、科学者の実践(ワーク)、ワーク特有の能力、それによる秩序のローカルな産出を研究する

3

修正マートン

CUDOSや先取権の規範には、反規範とのジレンマがつねに存在 (84)

実際には、その方向で研究を展開しなかった(83)

C:規則は絶対的なものではなく、規則に対する様々な関わり方があるという立場

4

ブルア

因果性:少なくとも部分的には、(外的)要因によって信念の内容を説明できる(92)

当事者の認識していない(受容するはずのない)要因を持ち出すことで、研究対象の認識共同体との間に、解決困難な対立(94)

D:実験室での出来事は完全に文脈づけられており、その場を分析することで理解できる。歴史家・社会科学者に解釈の自由はない

5

ブルア

不偏性と対称性:すべての理論や事実は、社会的に説明される「信念」として扱われるべき(94)

政治的・恣意的という意味合いが生じるが、それは正しくない(97)

E:不偏性(積極的に偏りをなくす)ではなく、無関心(偏りがあるかはそもそも考えない)。現に科学者が実践していることの記述にとどまるべきだ

6

ピッカリング

素粒子物理の進歩は、他でもありえた可能性の中の一つにすぎず、物理学者の解釈が入っている(101)

ピッカリングの主張自体、メインストリームとは異なる「科学者バージョンの説明」になっている(102)

E:不偏性(積極的に偏りをなくす)ではなく、無関心(偏りがあるかはそもそも考えない)。現に科学者が実践していることの記述にとどまるべきだ

7

コリンズ

論争の終結は「決定テスト」ではなく、専門分野のコア集団の中での社会的プロセスによって決まる (108)

コリンズの示す経験的証拠から、ウェーバーの実験が間違っていたと結論することも可能(108)

E:不偏性(積極的に偏りをなくす)ではなく、無関心(偏りがあるかはそもそも考えない)。現に科学者が実践していることの記述にとどまるべきだ

8

SSK全般

相対主義や構築主義の立場(120-121)

経験的研究とは無関係であり、研究に先立つ理論的前提・ポリシーにすぎない(120-121)

E:不偏性(積極的に偏りをなくす)ではなく、無関心(偏りがあるかはそもそも考えない)。現に科学者が実践していることの記述にとどまるべきだ

9

実験室のエスノグラフィー

現場の直接観察によって、科学の営みが発見ではなく創造のプロセスだと明らかにする(109)

科学の「内容」が曖昧なまま。科学者が「直接観察」と言うと批判するのに、我が身は省みないのか?(123)

B:事後的な再構築とは異なる、科学者の実践(ワーク)、ワーク特有の能力、それによる秩序のローカルな産出を研究する

10

ラトゥールとウールガー

文字による銘刻(inscription)を重視(112)

「隠された技術と膨大な装置」が関わることを見ていない(112)

B:事後的な再構築とは異なる、科学者の実践(ワーク)、ワーク特有の能力、それによる秩序のローカルな産出を研究する

11

ラトゥールとウールガー

当の科学者の用語法から距離をとるべき(114)

中立的な観察言語をめざす、実現不可能な取り組み(科学者とわれわれは基本的に同じ言語を使う)(116)

A:社会を分析するには、その社会の言語を使い、その実践に組み込まれるしかない(相互反映性)。

12

ラトゥールのANT

人もモノも等しく扱う記号論的アプローチ(128)

従来の社会学に引き寄せた「誤解」をうまく利用して、「より広い」文脈を扱える分析に見せかけている(129-130)

D:実験室での出来事は完全に文脈づけられており、その場を分析することで理解できる。歴史家・社会科学者に解釈の自由はない

13

ポスト構築主義全般

実験室には研究すべきものが残っていない(124)

個別性はあるが、散漫ではなくローカルな秩序をもっており、研究対象となりうる(133, 366)

B:事後的な再構築とは異なる、科学者の実践(ワーク)、ワーク特有の能力、それによる秩序のローカルな産出を研究する

14

ポスト構築主義全般

「より大きな」文脈を考慮に入れる必要性(132)

書かれたものではない生の実践が見失われ、科学の実際とかけ離れた議論に戻ってしまう(132)

D:実験室での出来事は完全に文脈づけられており、その場を分析することで理解できる。歴史家・社会科学者に解釈の自由はない

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知識概念の位置づけ

図2-1 知識概念の位置づけ

出典:『環境問題の科学社会学』

表2 科学知の生産局面と利用局面の関係についてのアプローチ比較

 

SSK(利害批判以降)

ANT(Latour)

エスノメソドロジー(Lynch)

STS(Jasanoff)

手法

論文・インタビュー(会議録)

インタビュー・録音・メモ

録音・メモ

会議録・インタビュー・論文

めざす理論

組織論、社会変化

社会変化

ミクロ秩序

組織論

単一出来事の原因探究

×

△×

利用局面の分析

片方のみ

生産局面の分析

片方のみ

△×

生産と利用のつながり

組織・人脈

記号

組織・人脈

研究内容の分析

○△

△×

組織・イデオロギー分析

×

×

現場の調査

独自の科学的立場

×

×

×

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参考: コリンズによるGLL批判(Collins 1983)

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