日曜社会学 - ルーマン・フォーラム | エスノメソドロジー番外地

Sunday sociology - Luhmann Forum / Ethnomethodology: on the edge of nowhere
2012-09-26 掲載

前田泰樹『心の文法──医療実践の社会学』前田泰樹『心の文法──医療実践の社会学』合評会

ここには、2012年09月09日(日)に成城大学にておこなった 社会学研究互助会第三回研究会「前田泰樹『心の文法』合評会」における配布資料などを掲載しています。

このコーナーの収録物 前田 泰樹さん (配布資料 ←このページ
  山田 圭一さん (配布資料) (討議
  飯島 和樹さん (配布資料:HTMLpdf) (討議)  
  井頭 昌彦さん (配布資料) (討議)  
  全体討議摘要  

※本書の紹介ページがあります。あわせてご覧下さい。

「『心の文法』に対する3つの質問」への回答
前田泰樹(東海大学 総合教育センター)

著者に対する3つの質問:

Q1. この論考で取り組んだのはどのような課題ですか。

 序論の冒頭部に書きました通り、本書の目的は,「心」にかかわる概念の用法を記述し、展望を与えることにあります。「心」にかかわる概念ということで、本書では、動機、感覚、感情、記憶を主題として取り上げました。これらは、個人の心理状態や個人の能力へと還元されて説明される傾向があります。しかし、感情や記憶は、特定のメンバーシップ・カテゴリーに対して、持つことが規範的に期待されるような性格を持っています。その上で、特定の感情や記憶を、他のメンバーシップ・カテゴリーでなく、「個人」という特異なカテゴリーに結びつけて理解がなされるとき、その適切さ自体が、感情や記憶に結びついた権利・義務・能力などを互いに帰属させあう実践に依存しているはずです。そうした実践を記述することで、私たちがそれらの実践に(可能的には)参加しているのだと想起させること、それが、この書物で取り組んだ課題です。

Q2. それぞれの課題に対して、あなたは、どのような答えを与えましたか。

 「記述する」のが課題ですから、それを実際に遂行することが答えということになるでしょう。実際には、まずは、社会学の理論や方法論、あるいは医療の実践において語られる理念や用いられる理論学説の中に登場する動機、感覚、感情、記憶といった概念の用法を記述しながら、それらを個人的なものであることを自明とする考え方が何を見落としてきたかを提示し、次に、にもかかわらずそれらを個人的なものとして扱う実践がどのように適切な仕方で成立しているのかを、医療現場での実践を記述することによって示して行く、という作業を行いました。
 目次を見ていただければわかるように、第1部は、それぞれの章で2つの作業を、第2部、第3部は、それぞれ冒頭の章で前者の作業を、残る2つの章で後者の作業がなされています。しかし、見かけ上の構成以上に、本書は、ほとんどすべての箇所で同じこと、つまり、心にかかわる概念が個人的なものとして理解されるのは特定の帰属実践の帰結なのだ、ということが、繰り返し書かれています。金太郎飴のように、どの頁をひらいても、ほとんど同じことが書いてある、そのような本になっていると思います。
 他方で、例えば、「痛み」という感覚と「怒り」という感情の区別を、それぞれの概念が何と結びつき、何を結びつかないかをたどる、という作業を行っているため、実際には関連する概念でも、身体的な「痛み」については2章で、「痛み」に結びついた「思い」については3章で、といったふうに、章をまたがって記述されている箇所もあります。というよりも、本書全体が、結びつきの網の目によって成り立っている、という性格もあるかもしれません。1つ1つの事例は、その結びつき網の目において、秩序だった仕方で派生したバリアントとして提示されています。

Q3. こうした課題にはどのような意義がありますか。なぜそうした課題に取り組もうと考えたのですか。

 こうした課題においてなされる記述の第1の意義は、なによりも、まずはリマインダーとして働くことだと思います。つまり、私たちが、感情や記憶に結びついた権利・義務・能力などを,互いに帰属させあう実践に参加しているのだということを想起し、確認することにある、ということです。そして次に、こうした記述は、実際に生じるであろう困難を、性急に個人的な問題として処理する考え方に陥らないための、1つのインストラクションとして働くだろうという期待もあります。
 こうした課題に取り組もうと考えたのは、1995〜6年の時点で、問題を個人化するような考え方に対して、私たちが実際にやっていること自体が、そのような仕方ではなりたっていないのではないか、という疑問をもっていたからです。課題に向き合ううちに、問題を個人化するような考え方自体も、私たちの実践の中で作られ、使われるものとして記述していく、という方向性へと段階的に移行していきました。その変化の過程は、本書にも反映されています。

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