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松沢裕作『歴史学はこう考える』 『ワードマップ エスノメソドロジー──人びとの実践から学ぶ』 『質的研究アプローチの再検討:人文・社会科学からEBPsまで』

歴史家、エスノメソドロジーに遭う ──松沢裕『歴史学はこう考える合評会──

このページには、2024年12月15日(日)に一橋大学にて開催する 社会学研究互助会アネックス第4回研究会 「歴史家、エスノメソドロジーに遭う──松沢裕作『歴史学はこう考える』合評会」 のご案内のほか、「松沢裕作『歴史学はこう考える』に対する3つの質問」への回答 を掲載しています。

催しの概要と参加申込

合評会開催概要

開催日
2024年12月15日(日) 午後 主催者都合により延期となりました。日程を再調整し、あらためてアナウスいたします。
会場
一橋大学国立キャンパス+オンライン (事前申込制)
対象書籍
松沢裕作『歴史学はこう考える』(ちくま新書、2024年)
※著作紹介:
  • 書籍紹介ページ(筑摩書房): 書誌や目次、著者プロフィールなどが掲載されています。
  • ちくまWEB: 「はじめに」が公開されています。
  • 進捗報告互助会: 著者による「著作解題」が掲載されています。
登壇者
著者: 松沢裕作 (慶應義塾大学教員/日本近代史、史学史)
評者: 井頭昌彦 (一橋大学教員/科学哲学)
評者: 浦野 茂 (三重県立看護大学教員/医療社会学)
司会
酒井泰斗 (会社員、社会学研究互助会主催)

参加資格

参加申込

参加申し込みフォーム

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「松沢裕作『歴史学はこう考える』に対する3つの質問」への回答
松沢裕作(慶應義塾大学)

本書に対する3つの質問:

Q1. 本書で取り組んだのはどのような課題ですか。

 歴史学が史料を用いて何らかの研究成果を生み出す時に、歴史家は何をしているのか、ということを、具体的な研究成果(論文)に即して記述するという課題に取り組みました。

 その際、以下の二つの点に留意しました。

 第一に、歴史家の関心の多様性に応じて、政治史、経済史、社会史など、「〇〇史」と呼ばれる歴史学の多様な分野・潮流が存在すること。

 第二に、歴史家がおこなう過去の記述は、学問的形態をとることなく、だれもがおこなう過去の記述と地続きであり、その特殊な一形態として位置づけらえるということ。それゆえに、政治的立場と連関して、歴史認識をめぐる論争が発生すること。

 以上の二点を踏まえ、歴史家の関心の多様性にもかかわらず、歴史学が学問として存立しているとすれば、それはどのような条件においてなのか、という課題に取り組みました。

 課題は「はじめに」に提示され、また第六章末尾の部分においても再度提示しています。この課題への取り組みは、まず第二章で自分の論文の分析によって行われています。第一の留意事項を踏まえた課題への取り組みは、第三章から第五章にかけて、分野・潮流ごとの論文の記述の特徴に注目することによってなされています。第二の留意事項を踏まえた課題への取り組みは、第一章、第六章で、日常的な会話と歴史学的記述との比較、また価値判断と歴史記述の関係への着目を通じてなされています。

Q2. それぞれの課題に対して どのような答えを与えましたか。

 歴史家が論文を書く際の基本的な単位として、史料の引用と敷衍というセットがあることに注目し、そこでは、歴史家の研究対象となる過去の事実や状態が直接に提示されているわけではなく、歴史家が論文を書いている時点で、著者と読者が、ともに史料を前にして共有できる知見は何なのかを確認する作業がなされていることを明らかにしました。これは主として第二章に記しています。

 そのうえで、第三章から第五章では、政治史、経済史、社会史とそれぞれ呼ばれるタイプの論文の例をとりあげ、そこでの引用と敷衍のセットの特徴を明らかにしました。その結果、政治史の場合は、国家(政府)を前提としたアクターの行動が、経済史の場合は市場を前提としたアクターの行動が、社会史の場合には、規範の共有を前提としたアクターの行動が、それぞれ焦点化されていることがわかりました。

 以上をふまえて、歴史家の関心の多様性にもかかわらず、引用と敷衍という基本的な作業のレベルに立ち返るならば、すくなくとも相互の関心(ある史料のなかで、どこに注目しているか)の違いを確認することは可能であるし、それを確認しあうことが、歴史学が学問として成立する条件であると述べました。この点は、第三章(p.145~149)で先取り的に示したのちに、第六章で主題的に述べています。

Q3. こうした課題に取り組むことにはどのような意義がありますか。なぜそうした課題に取り組もうと考えたのですか。

  私は、従来の歴史学の方法論ないし入門書において、歴史家がやっていることそのものを「事例」として分析し、それによって歴史学という営為を適切な抽象度において記述するということが十分おこなわれてこなかったのではないか、と考えています。

 その結果、「史料批判の重要性」や、「歴史家は問題意識に応じて歴史を書く」といったことが一般論としては言われつつも、歴史家がどのような問いを立て、それにどのように答えようとしているがゆえに「史料批判」や「問題意識」が必要になるのかといったことが、歴史学の営為そのものに根差したかたちで見定められてこなかったように思います。勢い、「史料批判」や「問題意識」は、いささか「お説教」じみた形で、規範的に提示される傾向がありました。結局のところ、なぜ歴史家は、「問題意識」なるものを有し、「史料批判」を行いながら研究をしているのか、これを現実の歴史家の作業上の必要に即して提示したことが本書の意義のひとつであると思います。すでに存在する多くの歴史学入門書は、本書と併読されることによって、より十全にその意義を発揮できるものと考えます。

 さらに一回り外に目を向ければ、こうした作業を通じ、歴史学が、さまざまな学問と比較したときに、どのような特性を持っているかを考えるうえでも本書は役に立つでしょう。とりわけ私の念頭にあるのは、社会科学におけるいわゆる「質的」研究の知見の妥当性がどのように担保されるのか、という問題群です。本書では、政治史、経済史、社会史といった「〇〇史」という枠組みは、ある事例を「何の事例」として取り上げるのかという枠組みでもあることを示し、そうした枠組みとの関連性において一事例の研究から得られる知見は有効性を獲得する可能性があることを示唆しました。もっともこうした方向に関しては、本書はごく初歩的な示唆であるにとどまるでしょう。「歴史学の科学哲学」や「歴史学の科学社会学」といった分野の研究の発展に向けて、その一材料を提供したことにはなろうかと思います。

20240924 作成/20241007  更新
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