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2013-09-09 掲載 2013-09-09 更新

シンポジウム「making up people:イアン・ハッキングの歴史的存在論」シンポジウム「making up people:イアン・ハッキングの歴史的存在論」

ここには、2013年09月07日(土)に 成城大学において開催した 社会学研究互助会第七回研究会シンポジウム「making up people:イアン・ハッキングの歴史的存在論」における配布資料などを掲載しています。

このコーナーの収録物 重田 園江さん (配布資料) (討議)  
  渡辺 一弘さん (配布資料) (討議) ←このページ
  浦野 茂さん (配布資料) (討議)  

※シンポジウムの告知ページがあります。あわせてご覧下さい。

動的唯名論はどんな哲学的問題に答えようとしているのか?
渡辺 一弘(日本学術振興会特別研究員 東京大学人文社会系研究科)

渡辺報告
0a. GOALS
0b. STARTER QUESTIONS
0c. OUTLINE
1. 動的唯名論とグッドマンの世界制作論
2. 自然種(natural kinds)と人間種(human kinds)
3. ループ効果と動的唯名論: 俯瞰・深化・展開
REFERENCES
討議
鈴木晃仁(指定討論者)
全体討議

0a. GOALS

0b. STARTER QUESTIONS

『何が社会的に構成されるのか』と『知の歴史学』を読んでいて、 次のような素朴な疑問を抱きませんでしたか…?

0c. OUTLINE

  1. 動的唯名論とグッドマンの世界制作論
    1. 「人々を作り上げること」と「世界を作るいくつもの方法」
    2. 「帰納の新しい謎」とグッドマンの投射の理論
    3. ハッキングによる解釈と敷衍
  2. 自然種(natural kinds)と人間種(human kinds)
    1. 「自然種」なんてものはない。ただいろいろな種類があるのだ。
    2. 「自然種」の放棄と「人々を作り上げる」プロジェクト
  3. ループ効果と動的唯名論: 俯瞰・深化・展開
    1. 俯瞰:ループ効果の概略
    2. 深化:動的唯名論は何を明らかにするのか?
    3. 展開:具体的な実践の中へ

1. 動的唯名論とグッドマンの世界制作論

1-1. 「人々を作り上げること」と「世界を作るいくつもの方法」

1-2 . 「帰納の新しい謎」(cf. Goodman 1983: 『事実・虚構・予言』)とグッドマンの投射の理論

1-2-1. ヒュームの帰納に関する「懐疑論」

1-2-2. 「帰納の新しい謎」

1-2-3. 述語の「投射可能性」と「擁護」(cf. Goodman 1983: 『事実・虚構・予言』)

※ここらへんのまとめとしては Watanabe(2011)などもぜひご参照ください。

1-3 . ハッキングによる解釈と敷衍

1-3-1. ロックと Right Substances の問題(cf. Hacking 1993)

1-3-2. 分類と一般化(cf. Hacking 1994)

ここでハッキングが言っている「分類と一般化の対称性」を理解するのに、以下1~3の図が役に立つと思います。まず最初に、「対称性」に関するハッキングの主張そのものとは同じではないけれども、それと関係する「何をどのように分類するかは、われわれの「物の見方」に依存する」という主張について考えてみましょう。

まず、図1。この1枚のスライドをひとつの世界、ないしは世界のひとつのヴァージョンと思ってください。それぞれ A, B, … , F という識別記号を付与された6つの縦長の長方形は、この世界に含まれる存在者です(※唯名論的世界観では、個別的なものだけが存在者として認められます。が、その「個別的なもの」とは具体的に言って何なのか、という問題はここでは脇に置いておきます)。それぞれの存在者は、いくつかの性質を持っていたり、持っていなかったりします。いまこの世界をパッと眺めると、「マル」や「シカク」で表現されている性質を持つ存在者たちがいることに気づきます。そこで、「シカクという性質を持っているもの」という分類を考えることにすると、そこにはA, C, Eが含まれることになります。 図1
次に、この世界にどこからか光があたって、世界の見え方が図2のように変わったとしましょう。先ほどまでは無色だったそれぞれの性質に、「色」がついていたのに気づくわけです。すると今度は、「黄色」で表された性質を共通に持っている存在者をグルーピングして、C, D, Eだけを含むような分類を考えることができます。同じように、「灰色のサンカク」で表された性質に注目すれば、CとDだけを含む分類が可能になります。もちろん、カタチだけに着目すれば、図1の世界でした分類と同じものも、依然として考えることができます。ポイントは、色に着目するかカタチに着目するか(あるいはその両者か)によって、考えることのできる分類の範囲が変わってくるということです。なおグッドマンによれば、このような「着目点の違い」は、「われわれにとって何が有為な種で何がそうでないかの違い」を生み、こうした違いも「世界」の相違となります:
世界が互いに相違するといっても、なかには、そこに含まれた存在者ではなくむしろ強調ないしアクセントが問題であるような相違があり、これらは存在者の相違に劣らず重要である。
(『世界制作の方法』p. 32 [訳書])
図2
図3では、C, D, Fがそれぞれ持つシカク、サンカク、マルだけ輪郭がボンヤリ見えています。光のあたり方が局所的に変化したのだと思ってください。これなどまさにたんなる「見え方」「強調点」「アクセント」の違いですが、ボンヤリと見えるその見え方によって、これらの性質を持つ存在者をひとつのグループに分類したくなります。しかし「見え方」の違いなんて、「カタチ」や「色」の違いとは異なり、きちんとした分類の基準にはなりえないのではないか?そう思うかもしれません。でも、ここで次のように考えてみてください。これらの図はパワーポイントの機能を使って(手抜きして)描いているので、マルはどれも同じ大きさのマル、黄色はどれも同じ色調の黄色になっています。が、これを全部フリーハンドで、色鉛筆か何かを使って描くとします。すると、それぞれの性質を表す図形のカタチや色は、それぞれ微妙に異なってくるはずです。すると、「マル」を持っている存在者、という分類を考えるには、「何がマルであるか(何をマルと見なすか)」という分類がすでに必要になるのです。すると「カタチの違い」が「たんなる見え方の違い」以上の「きちんとした分類の基準」に思えるのは、すでにそこに、「カタチによる分類」というわれわれが慣れ親しんだ分類のパターンを前提しているからだということが分かります。
図3

 ここで最初のハッキングの主張、「ある種類の名前を使うこと(すなわちあるラベルを使って分類を行うこと)と、その種類に属する個体について予測や一般化を行うことは symmetry だ」に戻ります。図3で存在者A, C, Eを「シカクという性質を持っているもの」と分類するとき、われわれは、(フリーハンドで書いた図を考えると)じっくり見れば色もカタチも大きさも見え方も微妙に異なっているものに、「シカク」というカタチの上での共通性を読み込んでいる、つまり、そのような点での共通性を予期しているのです。さらに、現実の世界はもちろんもっと複雑な姿をしています。もっとたくさんの存在者がいて、それらの各々はもっとたくさんの性質を持っています(ただしある存在者がどのような性質を持っているかという点そのものも、世界の「見え方」や「アクセント」の違いによって変わってきそうです)。そして当然、われわれは世界の全体を、これらの図を見たように俯瞰的に「パッと」見ることはできません。あるていど局所的な視点で、いくつかの存在者をじょじょに閲覧しながら、それらに「共通のもの」をじょじょに予期し、その共通点を基準とした「分類」を作り上げていくのです。この点は調査対象となる集団が厳密に確定できても、同じです。こうした現実の状況を考えるとなおさら、「いくつかの事物が互いに似ているように見えたり、それらが同じ種類に属しているように見えるとき、われわれはそれらの事物について現に何かを期待したり、推論したりしようとしている」というハッキングの主張がよく理解できると思います。

なお以上の説明は、2-2-1で「種類の制作と編成に関するグッドマンの見解から示唆されること」で述べることの理解にも役立つと思うので、合わせてご参照ください。

1-3-3. ハッキングによる述語の「投射可能性」への補足(cf. Hacking 1994)

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2. 自然種と人間種

2-1. 「自然種」なんてものはない。ただいろいろな種類があるのだ。

2-1-1. 「人々を作り上げる」プロジェクトにおける用語の変遷

2-2-2. それはそんなに重要なことなのか。

2-1-3. 「自然種」なんてものはない。ただいろいろな種類がある。

※[追記] ここでハッキングは、「虎」や「レモン」といった個々の種(kinds)が存在しない、と言っているわけではない。そうではなく、それら様々な種をさらに高次の視点からグループ分けする、いわば "meta-kind"としての「自然種」なるものが存在しないと言っているのである。

2-2. 「自然種」の放棄と「人々を作り上げる」プロジェクト

2-2-1. 「自然種/人間種」の放棄でむしろ原点回帰

2-2-2. 「自然種/人間種」の区別がつかないと困るのは誰か?

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3. ループ効果と動的唯名論:俯瞰・深化・展開

3-1. 俯瞰:ループ効果の概略

3-1-1. ループ効果とは?

3-1-2. ループの半分(1):「分類するもの」から「分類されたもの」へ

3-1-3. ループの半分(2):「分類されたもの」から「分類するもの」へ

3-2. 深化:動的唯名論で何が明らかになるのか?

3-2-1.榊原さんからいただいた事前質問

動的唯名論が適用される概念というのは、記述的な側面と評価的な側面(あるいは descriptive な 側面と prescriptive な側面)を併せ持つ概念と考えてよいか?

3-2-2. 動的唯名論は「記述」と「価値」の何に目を向けるのか

3-3. 展開:具体的な実践の中へ

浦野報告へのバトンタッチ

REFERENCES

ハッキングの著作
(1999) The Social Construction of What?, Harvard University Press =(2006)『何が社会的に構成されるのか』(『何が』と略記, 参照の頁は訳書), 岩波書店.
(2002), Historical Ontology, Harvard University Press =(2012)『知の歴史学』(『知の』と略記, 参照の頁は訳書), 岩波書店.
(1993) “Goodman’s New Riddle is Pre-Humian.” Revue Internationale De Philosophie 47 (185): 229-243.
(1994) “Entrenchment.” In Grue, edited by D. Stalker, 183-224. Open Court.
(2007a) “Natural Kinds: Rosy Dawn, Scholastic Twilight.” Royal Institute of Philosophy Supplements 61: 203.
(2007b) “Kinds of people: Moving targets,” Proceedings of the British Academy 151, 285-318.
グッドマンの著作
(1983) Fact, Fiction and Forecast, Harvard University Press =(1987) 『事実・虚構・予言』, 勁草書房.
(1978) Ways of Worldmaking, Hackett Pub. Co. =(2008) 『世界制作の方法』, 筑摩書房.
その他
Cooper, R. (2004) “Why Hacking is Wrong about Human Kinds,” British Journal for the Philosophy of Science 55: 73-85.
Douglas, M. (1986) How Institutions Think, Syracuse University Press.
Khalidi, M. A.(2010) “Interactive Kinds,” British Journal for the Philosophy of Science 61, 335-360
Watanabe, K. (2011) “On Goodman's Reading of Hume: The Old Problem, The New Riddle, and Higher-Order Generalizations,” 哲学論叢 38: 73-84.
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討議

指定討論

鈴木 晃仁(精神医学史)
[分類と一般化: 初めて HIV 患者を診ること]
渡辺
 
鈴木 晃仁
[]
渡辺
 

質疑応答

[投射可能性を決めるものは何か]
[二つの「一般性」の関係について]
「自然さ」: 「相互作用」とは(言語的なもの?意識的なもの?)
[哲学とエスノメソドロジーとの関係について]
[動的唯名論の適用範囲とは: 〈記述的/評価的〉という区別について]
[医学的概念における生物学的なもの。「ダウン症」には動的唯名論が適用されるのか。]
[患者の同定・識別の手続き、ループ効果、生物学的基盤]
[便乗: 〈薄い/厚い〉という区別について]
[]
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