第一節 法秩序論の課題
内的編成
他の社会秩序との関係 ← 重点
社会全体のなかでの位置
人間の生のとっての意味
事実的、経験的、社会的 > 理念、価値、規範
注 日本の法秩序論との関係
尾高朝雄 円錐同心円モデル → 動態化
井上茂 過程 法的推論も含む → コミュニケーション概念で豊富化
田中成明 3類型モデル 法秩序にはらまれる緊張の類型的分析
→ 特定の問題領域に即して分析する手段の提供
第二節 ルーマン解釈の分岐点
第一款 社会システムと意識システム ― 要素、作動、メディア
時期区分 前期 要素 複雑性
後期 オートポイエシス論 作動
晩期 動的双相理論へ 作動と相即的なメディア変容
→ 波動モデル 作動としては重ならない
メディアは重合的変容
意識システムと社会システム
作動は重ならないが、意味メディア上で重合 → 重合領域で相互浸透
第二款 システム間関係
基本イメージ 多数説 分離イメージ → 因果関係 → 制御論
超少数説 重合イメージ ← 動的双相理論
→ 社会的空間 : ザワメキ
→ 「制御」は別の説明が必要
大きなシステム 特徴 長期的存続、多数関係者、高い匿名性、薄い情報の流通、
類型的事態の反復的出来 → 「構造」成立
重合領域 → 相互浸透 同時に 構造的カップリング
初期の問題設定
規範的評価の基準 複雑性の増大 ← どこから?
の対象 全体社会 性格 ×諸社会領域の単純和
〇パラドクス 部分にして全体
類似→フランクフルト第一世代
全体社会の機能 マトマリの付与 = 複雑性の縮減
問題
存在しうるか? ← パラドクス
規範的評価の対象としての適性 意識システムとの関係 ・複雑性
・包摂/排除
自然環境との関係 インターフェースの適切性
マトマリの付与 いかにして?
規範的評価の基準と社会理論の関係は?
作動理論では 破綻
← 全体社会システムに固有の作動が同定できない
ルーマン 諸社会システムの作動の合算であるかのよう
動的双相理論では 整合的に解釈できる
存在 個々の作動によるメディア変容の重合 ← 個別システムには解消されない
適性 全体社会 = 個別システムの作動の総合的効果 ⇔ 自然環境
= 個別具体的な社会的事態 ⇔ 意識システム
まとまりの付与 おのおののシステムからの同一化的指示
基準
意味基底への遡及?
生活世界 パラドクス 部分にして全体
意味基底 還元 基礎づけ 二段階 理性の目的論
↑
無理 ← 同一化的指示 ; むしろ「生活世界」のほうが派生態
環境‐適応図式? Ashby
ルーマン自身が放棄
社会理論からの解放
評価活動 局所的
事後的 × 制御
〇 発見的 偶然的出来事
分化形式 機能分化 メリット 効率的遂行
派生問題 ← 機能システムの独走 とくに経済システム
システム的統合、社会的統合、エコロジー危機
パーソンズの場合 分解図式 AGIL → 規範的含意
システム的統合: I/O 均衡
社会的統合: 価値コンセンサス
エコロジー: 経済システム 再均衡 政治的制御(ミュンヒ)
ルーマンの場合 創発図式 分化の進行 拡張深化
システム的統合 問題とならず ほぼ自動的に達成
社会的統合 → 複雑性、包摂/排除
エコロジー → 全体社会と自然環境
↑
構造的カップリング=重合パターン ⇒ 社会システムの分節化的把握
立体的、大小波動、中心/周縁、まだら
第五款 理論の性格(本書第三章)
△ 命題や概念の集成
〇 作業手順
← 作業哲学としてのフッサール現象学 還元、主観極客観極の相関分析
← スペンサー=ブラウンの鍵算法 指図の体系としての数学
単純→複雑、反省
ルーマン 一般→個別、抽象→具体
* へーゲルの下降法、マルクスの上向法に類似
しかし弁証法的全体は想定されず
第三節 法秩序論の構図
第一款 法秩序の重畳構造
全体社会 構造 「法」
機能的サブシステム 「法システム」
組織 「司法システム」
政府組織、行為主体
相互行為 「紛争システム」 法的相互行為 個別裁判手続
内的編成 : それ自体の中で重合、行為主体
他の社会領域と : それ自体重合的な社会領域と構造的カップリング
重要 ; 組織、制度、手続
全体社会の中で : 他の社会領域とともに個別具体的な社会的事態を構成
反省的コミュニケーションの場の一つ
生身の人間 : 個別具体的な社会的事態の経験、反省的コミュニケーションの主体
注: 規範 〇社会的側面
制度 〇
技術的側面 △ 未開拓の部分多し
主体 × → 弟子のナッセヒ、タッケら?
第四節 法理論の位置
第一款 ルーマン自身のスタンス
法の社会学的観察 ≠ 法理論 ― 法学の基礎理論部門
法理論の位置づけ もともと 法システムの反省理論 ← 機能、遂行、反省
↑ ← 法システムの作動的把握
維持困難 ← 法システムの内/外?
内 → × 外部観察の取り込み
外 → × 作動への反映
最終的規定
構造的カップリング 学問システムと反省理論の
ルーマンの理論と法理論のかかわり
断片的かつ偶然的 それぞれのシステムの歴史性
学システムと法システム
第二款 法秩序論における合流
ルーマン理論から法理論への貢献・注文
全体社会との関連を
一種の批判理論として 機能分析、パラドクス論
法理論の側の受け入れ態勢
準拠問題 独自設定、ウエイト変更
パラドクス論 言われてみないとわからない
記述面 精粗のバランス補正が必要
第一款 法理論の一般的問題としての法化‐非法化論
問題領域 紛争処理、自律領域、社会国家
概念 法秩序の拡大深化 同時に縮小浅化を伴うことも多い
→ 法秩序と他の社会領域の重合具合の変容の分析
第二款 紛争処理(→本書第二章、第六章)
従来の取り扱いの問題点
法の機能? 社会統制 むしろ政治システムの問題
紛争解決 個別裁判手続、せいぜい司法システムの問題
「紛争解決は法の機能の一つ」
→ 法秩序全体に漠然と帰しているだけ → 諸作動の重合分析へ
→ 第一着手;ルーマンの個別的分析を文脈に応じて読解し重ねて読む
ルーマンの著作の従来の読まれ方
『手続を通じての正統化』 政治システムの問題なのに法理論の問題と読まれた
『法システムと法解釈学』 司法システムと法解釈学の問題
法秩序論全体のなかに位置づけて読む必要あり
『社会の法』 オートポイエシス論だけが注目されているが、
機能システムとしての法が問題とされていることに注意
『法社会学』の「法」は全体社会の構造
紛争処理過程
記述面 紛争システム ADR 個別訴訟手続
全体社会(個別具体的な社会的事態、構造、機能システム)
準拠問題 法理論の方で設定しなければならない
民事訴訟の目的論 多元論や棚上げ論
→ 一つに決まらない、それらのバランスも決まっていない
その設定次第で、かなり異なった結論が色々出てくる可能性アリ
従来のルーマンの読まれ方 概念法学?
しかしそれは機能システムとしての法に焦点をおいていたから
また、概念法学の柔軟性の再評価(全体社会との往還、テキスト論)
紛争システム、ADR、個別訴訟手続に重点をおいたら?
システムセラピー的処理すら視野に入るはず
← 『近代科学と現象学』
いずれにせよ、紛争処理過程も諸作動の重合とみて、
それらの作動に帰せられる諸機能の遂行をおのおのの場面で
どのようにバランスさせるかという問題になるはず
第三款 自律領域(→本書第四章)
例 学校、医療、家族
↑
いずれも法システム、政治システムと相性が悪い
そこに具体的に目を向けるところにルーマン派システム論の意味がある
知覚/身体(とくに医療、家族) ⇔ コミュニケーション
コミュニケーションの行われる時と場所の疎隔(とくに教育)
いずれにせよ、「オートポイエシスだから自律的なんでコントロールできないよね」というようなふやけた話ではない
ルーマンの理論は正しく理解されれば批判も利用も労苦を強いる
第四款 社会国家(本書第一章、第六章)
ルーマン派のアプローチ
法システム、政治システムと他の社会領域の重合具合の変容
準拠問題 複雑性、包摂/排除、エコロジー
ドイツ法化論
1970年代 規範の氾濫、法治国家の劣化(国法学など法律家)
1980年代前半 法政策学:行政学的政策科学的アプローチ、データ収集
各種機能不全、逆機能への着目
1980年代後半~1990年代初めまで
フランクフルト‐ブレーメン系:社会理論の投入
参加者:R. ヴィートヘルターの「政治的法理論」の影響を受けた法学者
トイプナー(私法)、ラデーア(公法)、プロイス(公法)
それに関心をよせる社会理論家、社会哲学者
ハーバーマス、マウス、エダー
ヴィートヘルター自身
フランクフルト学派第一世代の影響化で出発、国際私法、企業法
その後、批判理論に、システム論や経済学を部分的に導入する方向
∴ 法化論争は、政治的法理論内部でのハーバーマス的批判理論と
システム論その他のバランスをどうとるかという問題
↑
位置づけ 通説 ハーバーマス=ルーマン論争反映説
〇少数説 関係なし説(そんなのルーマンじゃない)
ルーマン自身の対応
制御懐疑論? 機能システム≠行為主体
行為主体に着目すれば
制御が経験的条件により失敗したり成功したりするのは当たり前
その経験的研究は可能だし有意味
むしろ、選択の方向付け視点が「制御」の集約されることも問題を指摘
制御 目標値との落差 → 目標値の切り上げ切り下げ、
投入資源のコントロール
むしろ偶然から学ぶ姿勢の弱化
断片的言及
評価視点 全体社会レベルでの複雑性
重合点 立法(法システムと政治システム)
法化の問題点
全体社会‐司法システム‐法解釈学のよき循環には時間必要(本書第二章)
過度の社会国家化 → 上からの法形成、法解釈学的洗練の時間を奪う
対応戦略
コミュナル ハーバーマスら
エンジニアリング トイプナーら
リーガリスティック ルーマン自身
評価と展望
フランクフルト‐ブレーメン系
法と政治の一体的把握 ← 構造的カップリングが使えてないからしかたがない
社会国家化の振り子につれて法も振り子運動をするだけ
しかし、法と政治の関係付けは多様でありえ、法律家はそこで苦労している
その苦労を法理論の次元で定着させるという課題の放棄
時間の観点 偶然から学べない
国法学的アプローチと法政策学的アプローチ
具体的に事象を見ている点では、フランクフルト‐ブレーメン系より遥かにまし
しかしそれらの素材を統合する視点にかける
ルーマン自身
枠組みとしては一番有望
しかし、彼自身はそのポテンシャルを生かしていない
評価視点 複雑性のみ 包摂/排除、エコロジーも
構造的カップリング 重合点の組み方の多様性に具体的に配慮していない
第六節 ルーマン晩年における展開
第一款 当初の問題意識の活性化
時期 1980年代後半~没 『社会システム』『社会の・・』シリーズと並行
現象学的問題意識の再浮上
意識(システム)、時間、身体、知覚
功なり名とげた学者晩年の筆すさびか?
そうでもない 学問生活の最初期1960年代初頭
メルロ=ポンティの仕事などをきっかけに
世界的に後期フッサールの業績が再び注目を集めた時期
アメリカのサイバネティクス会議の印象も強かった
サイバネティクスと現象学に交点がある → ルーマンの出発点
時間 動的双相理論
作動と重合的メディア変容 → 複数システムの同期化が問題に
時間地平の変動 → リスク論
身体 コミュニケーションにも意識にも思うようにならない
にもかかわらず不可欠
知覚 非線条的意味現象 ⇔ コミュニケーション
↓
いずれにしても「淡々と流れるコミュニケーションだけを扱っているルーマン」というイメージを大きく踏み越えるもの
第二款 問題領域
家族(本書第四章)
医療(本書第四章)
リスク(本書第五章)
家族(本書第四章)
社会システム、コミュニケーション・システムとして捉える
特徴 身体、知覚の介在
全人格的包摂
家族療法的リアリティー ⇔ 機能喪失テーゼ
コミュニケーション・システムとしての純化/合理化 不可能、無意味
医療(本書第四章)
身体の存在感
社会システムとして 合理化困難 時間秩序の崩壊
反省理論成立せず 積極値と目標の不一致
不断のアドホックな調整の必要 人間の意識と身体
家族、経済などの社会システム
リスク(本書第五章)
意味の三次元 事項 不確実性 予想と事後の位置づけし
↓時間 時間地平の変動
↓社会性 帰属の問題
一般的問題としてのリスク社会
不断の再調整 人間と社会システム
社会システム同士 → 構造的カップリングのパターンが重要
しかも困難 ← リスクの心理学
事例研究
科学技術(本書第五章)
真正ルーマン派内部の対立
ルーマン自身(集権的決定司法的チェック)
VS ヤップ(多様な参加者による多段階的決定)
↑
分岐点が不明
動的双相理論からの解釈
彼ら自身充分に自覚していない
重合パターンの多様性、評価基準の多様性
展望 重合パターンのパレットを整備し評価基準を明示しつつ論じる
全体として
問題を単純化して明快な解を与える理論ではなく、
問題の厄介さにきちんと直面させる理論としてのルーマン理論