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本間直樹です。
「意識のオートポイエーシス」から始まったシステム論の解説も、ゆっくりながら社会システムと意識のカップリングの話題まで到達しました。意識やカップリングの問題についてはまだまだ煮詰めて考えるべき点が多数残されているように思われますが、フォーラムでの解説としては、同じ話題に踏み留まるのでなく、ルーマンの扱うさまざまなシステム論の諸領域に分け入り、領域(準拠システム)の差異を介して個々の領域を観察する方が、よりルーマン理論に沿ったやり方であると私は考えます。社会システム論の解説の出発点として「道徳的コミュニケイション」を選ぶこと自体は極めてコンティンジェントなことですが、ルーマンの「道徳」論は数ある彼の論考のなかで出色の出来映えであると言えます。解説としてはこの問題を論じながら、ルーマンの用いる「二次の観察」や「機能分化」、「二元コード」といった概念を検討してみたいと思います。
ルーマンにとって、「コミュニケイション」は「社会システム」の構成素であり、このコミュニケイションの連鎖によって社会システムのオートポイエーシスが成立する。この連載では、こうしたコミュニケイション概念の具体的分析の一つとして「道徳的コミュニケイション」を主に取り上げ、ルーマン独自のコミュニケイション概念を解説し、さらに「倫理学」を「道徳的コミュニケイション」を観察する反省理論として、即ち「二次の観察」を行う「学問システム」として位置づけるルーマンの議論をまとめる。そして出来れば、ルーマンの社会システム論のキー概念である社会進化、機能分化という一般的問題まで議論の射程に入れることを試みたい。
さて、既にルーマンは「道徳」について、「道徳の社会学」、「道徳の反省理論としての倫理学」という2つの興味深い考察を提出している。
前者は、自我と他我の間の「二重のコンティンジェンシ」に注目し、道徳をそのようなコンティンジェンシ状況の「解決」として捉えるとともに、それが道徳と「機能的に等価なもの」によって解決され得る可能性を探ることに重点が置かれている。また後者は道徳を善/悪の二元コード(区別)を用いるコミュニケイションとしてはっきりと位置づけ、道徳のコードから法、真理、経済などの様々なコードが機能分化するプロセスが、社会構造とゼンマンティクの記述という手法によって考察されている。
残念ながら、両論考は未だ日本語に訳されていないが、大体の内容は、以下の日本語で読める文献によって伺い知ることができる。
●クニール+ナセヒ:『ルーマン 社会システム理論』
?章:社会診断、2:道徳
●佐藤・中岡・中野編:『システムと共同性』
第1部2:「倫理学―システム論ののちに」(中岡成文)
●中野敏男:『近代法システムと批判』
2章4節:道徳のコミュニケーションとその反照的構造化
本論に入る前に、ルーマンがしばしば用いる用語についてのチャート式の解説をしておく。
(参考資料:『エコロジカル・コミュニケイション』巻末付録)
(?邦訳は読まないほうがいい)