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この主張は、次のようなかたちで表現されることもある。人はしばしば単一の理論、単一のアイデンティティ、斉一的に通用するはずの常識などに依拠して現実を把握しようと試みる。しかし現実はそれらの単純な道具立てによって把握するにはあまりにも複雑かつ動的である。したがって

私たちは「常識」の拘束力に抗いながら、常識自体を複雑な権力作用の交差する場所として捉え直さなければならないだろう。(山田 2000, 99)

 しかし「世の中は複雑だ」というこの物言い自体、あまりにも単純過ぎはしないだろうか。むしろ次のような逆説的な表現のほうがまだ適切なのではないか。「世の中は複雑だ」と断言するといういう単純な態度が常に通用するほど、世の中は単純ではない。世の中は、時として「世の中は単純だ」との仮定の下で振る舞うほうが適切な場合があるほど、複雑なのである、と(馬場 2001a、第1章を参照)。